私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第152回

コロナ渦に営業を続けるホテル

ホテルイメージ

私の知る限り、コロナ渦中に営業を続けているマンハッタンのメジャーなホテルは、ルーズベルトホテルしかない。2020年7月中旬から再オープンしたホテルがちらほらでてきたが、ルーズベルトは一度も閉じることなく、これまで営業を続けてきた。ニューヨーク州だけで、1日に700人もの犠牲者がでていた4月と5月は、コロナ患者や医療関係者の宿泊を受けるホテルとしてサービスにあたっていた。今もそれは変わらないが、一般の人も泊まることができる。

ヒルトンホテルズコーポレーションの創始者、コンラッド・ニコルソン・ヒルトンは、1929年から始まった世界大恐慌で、8軒運営していたホテル全てを失っている。8軒ともムーデイという富豪経営者に渡し、負債返済のための資金繰りをした。経済状況が改善したとき、5軒までを買い戻し、危機を乗り越え、その後、ニューヨークに進出して3軒のホテルを購入。選ぶ際に考慮したことは、大恐慌を乗り越える力を備えたホテルということだった。彼に選ばれたホテルはプラザホテル、ホテルペンシルバニア、そして、ルーズベルトホテル。

プラザホテルは1907年にオープンして以来、その多くの部屋は、富豪たちが暮らすアパートとして利用されていた。富豪たちが払う家賃が安定収入となったので倒産を免れた。ホテルペンシルバニアとルーズベルトホテルには、双方ともに巨大鉄道ターミナルに隣接しているという共通点がある。ホテルペンシルバニアはペンシルバニアステーション。ルーズベルトホテルはグランドセントラルターミナル。殊にルーズベルトホテルとグランドセントラルターミナルは、当時、地下通路でつながっているという高い利便性があった。不況で人が動かないと言っても、鉄道駅に隣接しているホテルであれば、それなりに泊まる人は捕まえられる。

今回も、ルーズベルトホテルはその立地を最大限に生かし、90年前と同じように、苦境を乗り越えようとしている。昨今、マンハッタンのホテルでは、「ロケーションによる集客の差はほとんどない。大切なのはそのホテルの魅力だ」と言われてきた。だが、人の動きが途絶えた状況下においては、立地こそが究極の魅力となった。

2020.7.21公開

編集部註:マンハッタンの老舗ホテル「ルーズベルト・ホテル」(The Roosevelt Hotel)は、2020年10月31日をもって閉館が決定いたしました。(2020.10更新)

関連コラム

私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

このページの先頭へ戻る

大好評!アップルくんポイント
  • 緊急コールセンター
海外でのトラブルや、現地での旅のお手伝いは緊急コールセンターにおまかせ下さい。安心・確実な旅を日本語でサポートします。
  • 空港からのアクセス
主要な都市の、空港から市内までのアクセスをまとめました。