私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第155回

ホテルチェーンのオリジンを訪ねて

ホテルイメージ

第一次大戦後、コンラッド・ニコルソン・ヒルトンはフランスの戦場から戻ると、テキサスを目指した。1901年に石油が発見されて以来、そこはオイルマネーに沸いている地。銀行を経営すれば儲かるという友人の言葉に動かされ、買収する銀行を探した。シスコの街に寄ったとき、40室のモブレーホテルに滞在。だが、部屋を1日に3回転させているため、すぐにはチェックインできず、8時間後に戻ってこいと言われる。コンラッドはホテルに強い興味を抱き、オーナーをつかまえると、丁度、彼はホテルを売り、オイルへの投資を考えているときだった。幸か不幸か、買収予定だった銀行の値が7万5千ドルから8万ドルに吊り上げられ買えず、代わりにこのホテルを4万ドルで購入、1919年のことだった。現在、モブレーホテルは、外観はそのまま保存され、コンラッド・ヒルトン・ミュージアムになっている。

1957年、シカゴ在住の弁護士であり、ビジネスマンのジェイ・プリッツカーはロスアンゼルスエアポートで乗継便を待っていた。空港近くのホテル内のレストラン、“ファット・エディーズ”で時間をつぶしているとき、カフェの入り口で途切れない人々の列を見て、そのナプキンをカバンに入れた。翌日、弟にそのホテルを調べさせたところ、「空港近くに建てても、利用する人はいないと言われたが、オープンとともに利用客であふれ、年間を通して98%という驚異の稼働率を出しているホテル」と知る。ジェイは、すぐにオーナーのハイアット・ロバート・ボン・デーからこのハイアットハウスを買収した。飛行機を利用してアメリカ中を移動するビジネスマンの増加を見たジェイは、エアポートホテルに大きなチャンスがあると考えた。アメリカ初のエアポートホテルであると同時に、ハイアットホテルの第一号となったこのホテルは、現在、トラベロッジ・ラックス・サウスとなり営業を続けている。

1800年代後半、ヨーロッパを席捲したホテル王、セザール・リッツは病に倒れた。彼のブランドをモントリオールで開花させることを切望したチャールズ・ホスマーはイギリスに行き、リッツシンジケートと交渉を行う。結果、先方が出した条件を受け入れ、1) 全ての部屋にバスルームを完備すること。2) ルームサービスをコースでサービスできるように、各フロアーにキッチンを完備すること。3) 24時間体制でコンシェルジェとバトラーを置くこと。4) ロビーを狭めにして、ドレスを着た女性が自分をモデルのように披露できる階段を造ること。という4つの項目に基づいたホテルを、1912年にオープンさせた。セザール・リッツの意思を直接受け継いだこのホテルは、勲章を掲げているライオンのロゴマークを与えられ、現在も営業を続けている。1983年にアトランタで設立された現在のリッツカールトンのロゴマークはこのホテルのものとは異なる。

上記は、今に残るホテルチェーンのオリジンとも言える建物。これらの町を旅する機会があったら、訪ねてみてはいかがだろうか。

2020.10.20公開

関連コラム

私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

このページの先頭へ戻る

大好評!アップルくんポイント
  • 緊急コールセンター
海外でのトラブルや、現地での旅のお手伝いは緊急コールセンターにおまかせ下さい。安心・確実な旅を日本語でサポートします。
  • 空港からのアクセス
主要な都市の、空港から市内までのアクセスをまとめました。