私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第136回

ユニオン(労働組合)の必要性

ホテルイメージ

日本からニューヨークのホテルを買いに来る人たちが口を揃えて言うことがある。「ユニオン(労働組合)に加盟しているホテルは買いません」

ユニオンとの契約上、よほどの理由がない限り、ユニオンに入っているスタッフ(ユニオンワーカー)を解雇することはできない。それにあぐらをかき、態度の悪いスタッフがいる。少々注意したぐらいでは、アメリカの国民性を持った人は態度を改めない。また、ユニオンワーカーの利益を守るための契約もある。たとえば、ゲストの荷物は、ベルマン以外のスタッフが持ってはいけないという決まりがある。チップがベルマンに払われなくなるのを防ぐためだ。そうしたことがサービス向上の足枷となるので、ユニオンに加盟しているホテルは買いたくないというのが彼らの論理。

だが、もう一方で考えなければならないことがある。それはニューヨークのスタッフの高離職率。フロントスタッフあたりは2年働けばベテランと言っても過言ではない。通常は1年程度で辞めていく。辞めれば、補充をしなくてはならない。それにはお金もかかるし、新人ばかりのスタッフではサービス向上がはかれるはずもない。

大手ホテルチェーンは離職率を下げるため、様々な福利厚生プログラムを用意している。最も効果的なものが、同傘下のホテルに泊まる場合には、部屋とレストランでディスカウントが受けられるというもの。昔は、“バケーションで使うときには、年間10泊まで傘下のホテルが無料で泊まれる”などというプログラムがあった。

残念ながら、スタッフをキープするためのこうしたプログラムを、日本のホテル会社が用意することはほぼ不可能。まず、それだけの数のホテルがアメリカ国内にない。そして、充実したプログラムがなければ、離職率を下げられず、不慣れなスタッフによるオペレーションを行わなければならない。これを防げるとしたら、並外れた給与を払うことだけになる。大きな目で見れば、ユニオンに入っているホテルを買い、ベテランスタッフで運営したほうが、良い結果となることのほうが多い。アメリカのホテル運営のポイントは、人材の優劣に関係なく、優れたサービスが提供できるシステムを作れるかいなかにかかっているからだ。

よく使われる比喩に、“日本人は山を前にしたときに、森を見ずに、木を見る”というものがある。アメリカで、その習慣をもとにビジネスを行えば、前途多難を自ら作り出すことになる。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

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