私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第142回

今に残る超豪華ホテルを造った大富豪

ホテルイメージ

タイタニック号沈没に巻き込まれた犠牲者の中で、最も著名な人物と言えば、ジョン・ジェイコブ・アスター四世の名が挙がる。レオナルド・デカプリオ主演映画「タイタニック」も、アスター4世の話しから始まっている。彼の曽祖父にあたる、ジョン・ジェイコブ・アスターは、ドイツのウォルドルフ地方で生まれ、ニューヨークへと移民した。主に、毛皮貿易と不動産投資で富を築き、アメリカ史に残る大富豪、鉄道王コーネリアス・バンダービルト、鉄鋼王アンドリュー・カーネギー、石油王ジョンDロックフェラーに次ぐ、4番目の大富豪となった。

その財産を継承した、ジョン・ジェイコブ・アスター四世は、マンハッタンに、三軒の偉大なホテルを建てた。現在、エンパイアステートビルが立っている土地は、もとはアスター家が所有していた場所で、1893年に、“ウォルドルフホテルとアストリアホテル”の2軒のホテルが建てられた。ウォルドルフは曽祖父の出身地名。アストリアは曽祖父が不動産投資をして巨額の富を得た地名。この名称を与えられた2つのホテルが合わさり、ウォルドルフーアストリアが誕生した。

1800年代後期は、このホテルが社交界の中心となっていたが、時代の流れとともに、人気地区はセントラルパーク周辺へと北上。この流れを読み、アスター4世は、フィフスアベニューの55ストリートに“セントレジスホテル”を、42ストリートのタイムズスクエア地区に“ニッカボッカホテル”を建てた。

タイタニックの事故後、ジョン・ジェイコブ・アスター四世のあとを継いだ息子は、ウォルドルフーアストリアをエンパイアステートビルの開発業者に売却。1920年に禁酒法が制定され、レストラン&バーの売上がおちると、ニッカボッカホテルをオフィスビルに改築。彼が維持したのはセントレジスホテルだけだった。 だが、ウォルドルフーアストリアは、その運営を携わっていた一人が「このホテルを消滅させてしまうのは勿体ない」と、アスター家から、その名称を1ドルで購入し、1931年、パークアベニューの50ストリートと49ストリートの間に、新生ウォルドルフーアストリアを建立した。

現在、ウォルドルフーアストリアは、ヒルトンホテルの最高級ブランドとして、チェーン展開されている。セントレジスは、スターウッドホテルの最高級ブランドとなり、大阪にも進出した。また、昨今、ブティックホテルの人気が上がったことで、ニッカボッカホテルが、再び、オフィスビルからホテルへと改築され、ニューヨーク屈指のブティックホテルとして運営されている。タイタニック号とともに眠るジョン・ジェイコブ・アスター4世も、きっと、この展開を喜んでいることだろう。

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

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なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

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「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

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世界最高のホテル プラザでの10年間

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