私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第73回

おもてなしを世界に!

ホテルイメージ

Mandarin Oriental New York

日本には、「おもてなし」という単語で表現されるサービス精神がある。アメリカには、「ホスピタリティー」と呼ばれるサービス精神がある。おもてなしを英訳するとホスピタリティーだが、双方とも、それぞれの国の文化に基づいたサービスゆえ、その内容が同じというわけではない。ただ、“ゲストを歓待する心”という意実では同じものだ。

アメリカは物質主義の国。必然と、物で歓待の意を示すことが多くなる。私が働いていた当時のプラザホテルでは、朝食のとき、コーヒーばかりでなく、スクイーズオレンジジュースもリフィールした。トーストがなくなれば、「もっとおもちいたしましょうか?」と、ゲストを喜ばせた。「風邪をひいた」と聞けば、ルームサービスからチキンヌードルスープのさしいれを行った。すべては無料のサービスだった。日本では、ここまでのサービスをしてくれるホテルはまず見つからない。概して、日本人は大食家ではないので、こうしたサービスはアメリカほど必要とされないということもあるだろう。

なによりも、日本は精神に重点を置く国。精神的安らぎを与えることで歓待の意を示すことが多くなる。アシスタントマネージャーに、トイレの場所を尋ねれば、口で説明するだけでなく、わざわざ立ち上がり、トイレが見えるところまで案内してくれたりする。ロビーに複数のスタッフを配置して、能動的にゲストに話しかけ、役立つことを探そうとしたりもする。丁寧な対応と、求められる前にゲストが必要とするサービスを提供するという、“至れり尽くせり”を狙うのがサービスのあり方だ。アメリカでは、最低限のスタッフ数で運営にあたるため、至れり尽くせりのサービスはできない。また、他人に依存しない強い国民性を持つがゆえに、そうしたサービスを必要としない。

日本人がアメリカのホテルに泊まり、「アメリカのホテルはサービスが悪い」とよく言うのは、こうした文化の違いが生むサービス習慣の違いが引き起こすものだ。この点を理解しておかないと、“世界一のサービスを生むおもてなし精神”などと錯覚を語ることになる。

オリンピックの日本開催が決まり、「おもてなしを世界に!」というキャッチフレーズを見かける。だが、精神性に重点を置くサービスだけでは、必ずしも他国民を満足させることはできない。今、日本のサービスは、日本文化の枠から脱却し、世界の人々を満足させられるインターナショナルなものへと進化すべき時を迎えている。

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私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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