私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第188回

儲けられるうちに儲ける

ホテルイメージ

マンハッタンを散歩していると、デモをしている人々の姿を頻繁に見かけるようになった。また、時代の変革期が来ていることを感じさせられる。デモ活動の理由のひとつは、コロナによって生じた労働力減のしわ寄せだろう。以前よりも仕事がきつくなった分、給与を引き上げてもらいたい。そう思うのは当然のことだ。もうひとつの原因としては、サービス業で働く人々、とくにチップドワーカーの収入があがったことへの不公平感があるのではないかと思う。

ホテルもレストランもコロナ以前の数には戻っていない。にもかかわらず、観光客の数は以前に戻りつつある。多くの場所で、売上が伸びる一方、人手不足により、時給を上げなくては労働力を確保できない状態にある。チップドワーカーは時給があがるうえ、働く人数が減っているために、チップの分け前が増える。流行っている店なら、学生アルバイトでも、時給60ドル程度は稼ぐことができる。そんな情報が頻繁にマスコミで流されることで、チップをもらわない人々の心中に、自分の時給も上げてもらいたいという気持ちが沸きあがる。

デモをする人々は労働組合の傘下にある人々。労働組合と争えば、ストライキとなり、会社は麻痺状態になってしまう。そんなことになれば、会社の存亡までもが危ぶまれることになる。たとえ苦しくても、ある程度は労働組合側の要求に応えなくてはならない。そのために、まずマネージャーをレイオフして人件費を削る。その時、しわ寄せが他のマネージャーに行かないように、新たな効率のよいシステムを創り出す。マネージャーも、労働環境の悪い職場では働きたくなく、しわ寄せがくれば辞めてしまうからだ。こんなことの繰り返しで、企業は進化してきた。いや、進化できるシステムを造れた企業だけが生き延びてきたと言ったほうが相応しい。

時代は頻繁に企業に刃を突き付けてきた。そこで淘汰された企業があれば、生き延びた企業もある。進化は正に消滅の危機を乗り越えることで生まれる産物と言えるだろう。最大のダメージを被ったホテル業界は、今のところ、安泰な状態にある。アメリカの大都市のホテルの部屋数は不足し、高い稼働率と高い単価を維持している。それに乗じて、多くのスタッフの給与も吊り上げられている。だが、不景気がくれば、最初に大きなダメージを受けるのがホテル業ということもわかっている。そして、いつまでも好景気は続かないということは歴史が示している。儲けられるうちに最大限に儲ける。ホテルの料金に天井はないのだから。そんな心情で、現在、ホテルのオーナーたちは躍起になっている。

2023.7.31公開

関連コラム

私が見たアメリカのホテル バックナンバー
奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

・サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

このページの先頭へ戻る

大好評!アップルくんポイント
  • 緊急コールセンター
海外でのトラブルや、現地での旅のお手伝いは緊急コールセンターにおまかせ下さい。安心・確実な旅を日本語でサポートします。
  • 空港からのアクセス
主要な都市の、空港から市内までのアクセスをまとめました。