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サボイホテルでVIPになった日
この夏は例年にもまして多忙で、ヨーロッパからアジアへとジェットラグを解消する間もなく飛び回っておりました。日本は記録的な猛暑だったようですが、世界各地も変な天気でしたねえ。過ごしやすいと思っていたら急に冷え込んだり、反対に気温が急上昇したり……。これからの季節はますます油断できませんから、気候を読み間違えてつらい思いをしないよう、自然と旅支度にも力が入ります。
オリンピック後ロンドンは
訪問先のひとつロンドンは、20度前後とほどよい気候で大変快適な毎日でした。その心地よさをさらに引き立てていたのが、街の様子です。ロンドンと言えばハッキリしない曇り空、色気のない石造りの建物と、陰気でどんよりしたイメージが強かったのですが、オリンピックを機に何かが変わったような気がします。
好景気とまではいかなくても、あの世紀のイベントを成功させた高揚感が、まだ続いているかのよう。人々の表情は明るく、街中のムードもどこか生き生きとしていました。
ちょうど夏休みのシーズンだったせいか、世界中の観光客にあふれ、空港から街中まで大賑わい! うーむ、斜陽だ何だと言われ続けても生き残っていくしぶとさとしたたかさは、さすが大英帝国の首都だけのことはありますねえ(笑)。
ロンドンの象徴サボイホテル
さて、いまだある種の伝統と格式が重んじられているロンドンで、上流階級のサロン的役割を果たしてきたのが、創業1889年のサボイホテルです。もともとは歌劇場に併設された観客用の施設として建てられたもので、その長い歴史はイギリスの王侯貴族をはじめ、世界中のセレブリティを顧客にしてきたことでつとに有名です。
そんなサボイがトロントの高級ホテルグループ、フェアモントに買収されたのは2005年のこと。まあ、フェアモント自体も現在はサウジアラビアの王子様がオーナーですから、フラッグシップホテルの資産価値強化の狙いもあったのか、ホテルは2007年から全館閉館しての大改装に突入します。見積もりは1年間の閉館で総工費130億円……でしたが、そんなに甘くはなかった。工事はほぼ3年に及び、費用も300億円近くまで膨れあがったそうです。
再びお目見えしたサボイに、胸躍らせて足を踏み入れた私は驚愕しましたねえ。なんと、まるっきり昔のままだったのですよ! というと語弊がありますが、ワルシャワの街が戦後に壁のヒビ一つまで復元したのと同じこと。長年培ってきたあの重厚感、あの雰囲気を、そのままワープさせたのではと思うほどに、いやはや、見事なまでの「原状復帰」でありました。そりゃあ300億円かかるのも無理ないと納得しました。
スタッフに案内されたのは……
今回は新生サボイホテルでの初滞在。ストランド通りからホテル専用のエントランスロード(ゲストの降車のためここだけは右側通行)を抜け、ポーターとドアマンの華麗な連携でロビーへ。すると驚いたことにバトラーを従えたスタッフが、私の名前を呼んで出迎えてくれるではありませんか。
促されるまま客室フロアへ移動。彼女が開けたドアの向こうは……何とテムズ川を望むワンベッドルームスイート! いったい、どこでどんな手違いが(笑)。チェックインの手続きは室内で書類にサインをしただけ。パスポートの提示も他の記入もナシ。
世界各地のフェアモントを利用しているので、データベースができていたようです。デスクに置かれた便せんと封筒にも、私の名前が金文字で刻印されています。VIP相応待遇らしきサボイでの3日間は、こうして恭しくスタートしたのでした。
それにしても、ここのロビーは何度見てもため息が出るほど素晴らしいですねえ。モノトーンのマーブルをほのかに照らすアールデコ調のシャンデリアや堂々たる列柱。ロビーとしてはかなり暗めの光度や低めのソファセット、またチェックインルームを奥まった場所に設置するなど、レイアウトをあえて複雑にしているのは、ゲストに視線が集まらないようにするための工夫でしょうか。
エントランスの向かいにドーンとフロントを構えている一般的なホテルのロビーと比べると、エレベータの向きや調度品の位置、どれもが正面を向いていないのです。これは人間心理を計算し尽くした結果か? いやいや、実は、長い歴史の過程における継ぎ足し設計の結果かもしれないのか(笑)。まあ、そうであったとしても、名門ホテルにのみ許される異質感でありましょう。
サボイがパーフェクトではない理由
清楚なクラシックスタイルの客室は、機能性と快適さも申し分なし。常に私が不満に思っているフットライトなども完備しておりました。が、ここが100点のホテルかというと、残念ながらNoと言わざるを得ません。
最大のネックがダイニング。サボイに泊まっているというと、誰もがここで会食をとリクエストしてくるので(苦笑。でもその気持ちもよ~くわかりますけどね)、2回夕食を摂りました。
しかし、どうにも口に合わない。雰囲気はいいしサービスも悪くない。ですが……イマイチなのですよ。オーダースタイルの優雅な朝食も、やはり惜しいのです。ロンドンの外食事情がぐんぐんレベルアップしている昨今、このままでは上顧客を逃がしかねないゾ、と人ごとながら心配なのでありました。
マネジメントのフェアモント・オーナーがサウジアラビアということもあるのでしょうが、ゲストの多くは中東の富裕層。躾の行き届いた聞き分けの良い子供を連れたファミリーか落ち着いたカップルがほとんどで、団体客が闊歩するホテル特有の雑然とした空気とは無縁。ゆったりとくつろぐことができました。
そうそう、みなさんも気になるチップですが、これはもう「とにかく覚悟せよ」としか言えません。誰かに何かを頼んだら、必ず渡す(とはいえ1~2ポンド程度では気後れしそうな空気がひしひしと漂っておりますが)。
世界のホテルを泊まり歩いているとは言え、サボイクラスの超名門ホテルのスイートでの滞在などは、そうそう恵まれるものではありません。そういう意味でも今夏のロンドンは、大変に思い出深いものになりました。
加速度的に変貌しつつあるバリ島
この夏は久しぶりにバリ島にも行ってきました。個性的かつ優雅なヴィラの数々、大満足のスパ、日本人の口にも合う地元料理にエンターテインメント性もバツグンのゴルフ場などなど、前回はいい意味で大きな衝撃を受けましたが、今回もまた、その変貌に目を見張らされました。
実はマダムも私と入れ違いに、これまた久々にバリ島を訪れていたそうで、ちらりと話をしたところ感想合戦が盛り上がること盛り上がること! つきましては、次回はマダムとの緊急対談「バリ島は今」をお届けすることにします。果たして、バリ島の「変貌」の真実とは、そしてバリ島の今後は……。さまざまな観点からの現状分析を行います。みなさん、どうぞお楽しみに。