8
バーデンバーデンでワイルドな湯治を
以前お届けしたプチ・グルマンシリーズが好評で、倉井さん、服部さん、hsuzukiさんをはじめ、たくさんの方から「もっと他の都市も!」とのお便りいただきました。いや、ありがたい。やはり旅先での食事は、みなさん並々ならぬ情熱を注いでおられるようですね。そのうち登場するアジア編も、どうぞお楽しみに!
温泉文化は日本の特許にあらず
ドイツと言えば・・・ビール?車?音楽?それだけではありません。それよりももっと長い歴史を持つ「温泉文化」があるのです。2000年も前のローマ帝国時代に温泉が発掘されたバーデンバーデン。ヨーロッパでも屈指のこの高級保養地は、豪華で贅沢で洗練された癒しと健康の街。ここで私は「うむ、ヨーロッパの有名温泉保養地とはかくも日本と異なるものであるのか」と目を開かれる思いがしました。
とにかく常日頃抱いている温泉のイメージとは全く違うのです。日本の温泉は公共浴場スタイルから部屋付きのプライベート風呂へと、どんどん「閉」「静」の方向に進んでいますが、バーデンバーデンはその対極。「開」であり「動」なのです。そして「隠す」ではなく「見せる」。実に日本とは正反対の考え方であります。
全裸&混浴も恐れることはありません
舞台は壮麗なルネサンス様式のフリードリヒ浴場。入場料は3時間で4000円強。え、たった3時間?それじゃあゆっくりできないのでは?そんな疑問を胸にロッカールームへ。用意されているのは大判のシーツのようなタオルのみ。そう、基本は裸なのです。一瞬、躊躇するものの郷に入れば郷に従えの精神で、いざ突撃。うわあ・・世界各国の男女の裸が集結しています。見渡すところアジア系は私一人。ほとんどがビヤ樽(失礼)のような巨漢また巨漢。混浴といっても、この光景に邪道な気持ちなど起こりようもありません。
スタートは超特大シャワー。バケツをひっくり返したような、と言いますが、頭上から落ちてくるしぶきの爽快なこと。まさにヘブンリーな心地です。あとは定められたコースに従って移動していくだけ。ホットエアバス(中音・高温のドライサウナ)、シャワー、ブラシマッサージ、スチームバス各種、普通の風呂、ワールプール、アクアエクササイズ、シャワー、コールドプール、温かいタオルで体を拭いて、肌の手入れをし最後にリラックス。これでしめて3時間。過不足なく、ゆったりと、そして十分に心身はリラックスしています。
日本の温泉を極めたら世界の温泉へ
最高に気持ちよかったのがブラシマッサージ。大男がソープとブラシで全身くまなくガシガシ洗ってくれます(ここは男女別ですのでご心配なきよう)。皮膚が一枚むけた感じでさっぱりツルツル。その後のサウナでは先客のご婦人にタオルの使い方を指導され(苦笑)、老マダムの優雅な立ち居振る舞いに見とれ・・・気がつくと裸でいることが全然気にならなくなっていました。反対に裸で歩くことの開放感に満たされてくるのです。
日本人は、こうしたヨーロッパ式の温泉が苦手なようですね。混浴がイヤ、湯の温度が低すぎる、のんびりできない、全裸で歩き回るなんてもってのほか等々(バーデンバーデンの温泉に日本人団体ツアーがいないのは、このためかもしれません)。裸といっても、堂々としていれば大丈夫。誰もアナタに注目なぞしていません。コースを回るのに専念しているうちに、人サマのヌードなぞどうでもよくなります。明るく広大な施設も羞恥心をぬぐい去るのに一役買ってくれるでしょう。
ブレンナース パーク-ホテル & スパ
繁華街に程近いリヒテンターラーストラッセ界隈は個性的なホテルが集まっています。星の王子様をシンボルにしたデア クライネ プリンツ、古い館をそのまま利用したクラシックなベル エポックなど。しかしカップルでゴージャスに過ごすなら、ベルンナーズ パークホテル&スパがベストの選択です。このホテルは全てがエレガント&上質の極みと言っていいでしょう。ラウンジの華麗さ、バーの優雅さ。ゆったりとした客室は、機能性よりも雰囲気や満足感を掻き立ててくれる内装で、適度に加味されたアンティーク趣味が心憎いばかりです。ああ、さりげなく置かれたオットマンの美しさよ!
ウインターガルテン(ドイツ語で温室や冬園を意味します)は、その名の通り日射しがさんさんと降り注ぐ居心地のよいレストラン。ここで軽く昼食をすませ、ディナーはミシュランでも高い評価を得ているパーク・レストランへ。テラス席がオープンしている季節は、ぜひここを確保してください。カネボウがコスメ製品を提供しているスパは、オリエンタルなイメージを加味したスタイリッシュな空間。テルメのおおらかで開放的すぎるムードが苦手な女性はこちらにどうぞ。館内はバスローブを着たまま移動できます。なぜなら、ここはリラクゼーションが主体のホテルだから。気兼ねなく、でも贅沢に滞在できるベルンナーズ パークホテル&スパ。きっと王侯貴族の気分が味わえますよ。
バーデンバーデンはワインがうまい!
日本に入ってくるドイツワインは甘口がほとんどのため、先入観を持っている人が多いのですが、どうしてどうして、キリッとした辛口のおいしいワインがたくさんあるのです。バーデンバーデンはコクのある赤ワインや、さわやかなロゼワインの産地としても有名です。私が飲んでびっくりしたのはフランケンの白。シュタインヴァイン(石のワイン)とも呼ばれるように、ガツッとした非常に男性的な味わいが特徴です。イヤと言うほど食べたソーセージの中ではニュルンベルガーが秀逸。小型でジューシー。付け合わせのザウアークラフトもナイスです(ザウアークラフトもアルザスに近づけば近づくほどおいしい)。とはいえ、全体的にドイツの食事は低調ですナ。何しろボリュームがありすぎなのです。健啖家を自負する私でも、かなりもてあまし気味でした。いくら湯治で健康に配慮しても、あの量では全て台無しという気もしないではありません・・・。