世界中の古都といわれる多くの街では、長い年月の積み重ねの中で、時の流れの淘汰に勝ち残ったその街その国固有の様式の建築が、時の経過と共に味わいを増し、貫禄を備え、風格を感じさせ、街の景色を構成しています。
ところがそんな中にあって、街のストーリーとはまったく無関係に、それを押しつぶすような形で、大きなスケールの現代建築(つまり国籍不明の建築)が、君臨することがあります。名の知れた国際的なホテルテルチェーンでもそんな傾向が見られ、時に「この威圧感は犯罪的じゃないか?」と思わせる場面にも出くわしたりもします。
この様式が世界中どこにあってもその土地のストーリーとの関連が皆無であることを、実例を持ってご覧いただきましょう。事例は、北京、香港、韓国、オーストラリア、ハワイ、シアトル、アトランタ、シカゴ、アムステルダム、マドリッド、トルコ、と地球を一周してしまいます。そして、それらをシャッフルして別のところに入れ替えても、ほとんど違和感は無い(元々が違和感があるから、でもあるのですが・・・)というのがこの様式の特徴です。
そしてほとんどの場合、清潔で快適で、どこの国に行ってもそんなに身構えなくても滞在できる気楽さがあることを、この様式の利点として最後に挙げておきましょう。
北京の中心市街地に建つ51階建て435室の超高層五つ星ホテル。ホテルに使っているのは6階〜23階。紡錘型平面のつるっとしたガラスカーテンウオールの外装です。
香港島、湾仔地区に建つ299室の超高層三つ星ホテル。全面ガラス張り、円筒形の建物です。
ブレイクフリー ビーチコマー サーファーズ パラダイス
(ゴールドコースト/オーストラリア)
ゴールドコーストのビーチフロントに建つ三つ星ホテル。全室バルコニー付きで、外観の印象は隅田川沿いの高層マンション風です。
多角形円筒形のツインタワーは、ワイキキの「ハイアットリージェンシー」が有名ですが、こちらは、より滑らかな(正円形に近い)多角形のツインタワーで、シアトルのランドマークとなっています。室数891の五つ星です。
シカゴ川のほとりに建つ三角形平面の超高層。室数661の四つ星で、外装はアルミパネル+ガラスのカーテンウオール。
セルイスマ フロリダ ノルテ ホテル
(マドリッド/スペイン)
歴史的建造物の多いマドリッドにあって、街の文脈に無関係な一時代前の中層オフィスビル風の外観。室数399の4つ星ホテルです。
香港島、中環と湾仔の中間、地下鉄金鐘(アドミラルティ)を出てすぐ南、高台に建つ602室の超高層五つ星ホテル。多角形平面で、外装は水平線を強調したデザインになっています。
韓国を代表する五つ星、室数465のデラックスホテル。外観の印象は、新宿西口の新宿プリンスホテルに似ており、同じような茶系のタイル打込みPC(プレキャストコンクリート)パネルのカーテンウオールです。
アストン アット エグゼクティブ センター
(ホノルル/ハワイ)
ホノルル空港から約10km、ワイキキまではあと4kmという位置にある三つ星、全室スイートのホテル。ハーフミラーの総ガラス張り超高層の31階以上をホテルに使っています。室数は512。
ウエスティン ピーチツリー プラザ アトランタ
(アトランタ/アメリカ)
高層な建物で、室数1068の4つ星ホテル。円形平面、ガラスカーテンウオールをまとったシリンダー状の建築です。
ノボテル アムステルダム シティ
(アムステルダム/オランダ)
世界中にさまざまなタイプのノボテルがありますが、歴史的建造物の形をとることはなく、徹底して国際様式。このホテルはマンション風外観で610室の4つ星。
シェラトン イスタンブール アタコイ ホテル
(イスタンブール/トルコ)
アタチュルク国際空港から市街地に向かう途中、ビーチフロントに位置する室数285の超高層五つ星ホテル。空のブルーを映すハーフミラーの総ガラス張りの外観です。外観からはホテルなのか事務所なのかわかりません。