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あなたもかかっている「ツイン」の呪縛:その2
前回は海外ホテルにおける「ツイン」のカテゴリーについて、日本と海外、特に欧米の文化の違いから需要のミスマッチが起きることをお話ししましたが、これはみなさんも大変気になるテーマらしく、なかなかスルドイお便りをいくつかいただきました。今回はそのお便りにお答えしつつ、もう少し掘り下げて、この異文化研究(?)にじっくり取り組んでいきましょう。
ツインの概念が「ない」は言い過ぎか?
まずは関口さんのご指摘です。「海外ではツインルームの数が少ないのはまぎれもない事実ですけれど、ツインの概念が「ない」と言い切ってしまうのは言い過ぎのような気もします。ニーズが少ない、と言うのが実際のところでは」。
関口さん、いつもご愛読ありがとうございます。確かに「ツインの概念がない」と記したのは、ちょっと言い過ぎといわれても仕方ないかもしれませんね。欧米でツインの客室が少ないのは、関口さんがおっしゃるようにニーズが少ないのがその理由なのですが、その、まさに「ニーズが少ない」という文化的な背景こそが、私が「ツインの概念がない」と誇張解説したゆえんなのであります。
高級ホテルと「ツイン」の関係
以前もお話ししましたが、そもそも欧米の高級ホテルとは王侯貴族などの流れを汲む上級階級の、その優雅なライフスタイルを満たす別宅的存在。ナポレオン1世が愛用した天蓋付きベッドや優雅なソファ、カウチベッドが備えてあるゆったりしたベッドルーム・・・こうしたライフスタイルが疑似体験できる宿泊施設なわけです。よって「生活習慣」として夫婦やカップルはひとつベッドで寝るのが当たり前ですし、プライバシー重視の文化圏ですから、家族同室ではなく子供であっても基本的は一人一室が一般的。そのため欧米の高級ホテルでは、クイーンサイズベッドかキングサイズ1台の部屋が1~3名用として用意されているのですね。高級ホテルであればあるほど需要の限られたツインルームは少数なのです。
ツインは庶民のための部屋!?
では、なぜツインの部屋が造られるようになったのかといえば、これはもう、ひとえにゲスト構成の多様化と経済的なニーズの結果でしょう。注目すべきは、当時3スタークラスのキング的存在、ホリデイ・インの発想。当時ツインルームといえば4スター、5スターでさえもシングルベッド2台が常識であったところに「クイーンクイーン」と呼ばれるクイーンサイズベッドを2台置き、四人まで利用できる「ツイン」を用意したところ、「リーズナブルな客室料金なのにベッドが大きい!」「豪華!」だと大当たり・・・というのは前回お話ししましたね。今日では、ラグジュアリーホテルでもマーケットニーズのある場所ではほぼツインルームが用意されています。
また、一人宿泊の日本人には、ダブルベッド1台の部屋ではなくツインをアレンジされるという気の利いた(?)「習慣」も見受けられます。これは80年代の海外旅行拡大期に、ハーフツインベースで旅行代金設定されたために、旅行会社は「例外なくツインルーム」手配が常識化し、海外ホテルでは日本人はダブル嫌い、ツイン志向だという認識が定着したゆえでしょう。またベッドが2台ある二人部屋を一人で使う(ツインのシングルユース)ほうがグレードが上だという、日本人ならではの思い込みに対応した上級サービス(笑)も、まだまだ健在です。私ならゆっくり眠りたいので、チェックイン時にはベッドルームのオリジナル・デザインであるワンベッドルームをリクエストします。旅慣れたみなさんも同じでしょう。
欧米で同性は同じ部屋に泊まる? 泊まらない?
続いてアップルワールド会員さんから、欧米でのツイン認識について「理解は出来ましたが、同性(友達)同士の宿泊はどういうものなのでしょうか? 欧米においてもあり得る形態だと思いますが、そのへんのところもう少し説明して戴けないでしょうか」というリクエストをいただきました。
もちろんあり得る形態だと思います。しかし欧米、とりわけヨーロッパでは、同性ならばたとえ友人でも別々の部屋を取るのが一般的です。もちろん学生やバックパックの旅ならルームシェアすることはいくらでもありますが、これは安宿に限ったことですね。ある程度のクラスのホテルに滞在できる経済力がある人なら、親兄弟であってもプライバシーある環境選択が圧倒的でしょう。
同性で一室があらぬ誤解を生むことも
また出張でツインの部屋に同性が一緒に泊まるのも、欧米ではちょっと考えられない習慣のようです。たとえランクを落としてモーテルにしたとしても、ビジネスならば一人一部屋が常識。さすがに最近は減ってきましたが、同性での一室利用を断るホテルも国によってはあるとかないとか。そういえば少し前にイギリスで、政治家が同性の「特別顧問」とホテルのツインルームに泊まり、あらぬ噂を立てられたことがありましたよね。
と、まあ、話はあちこちに広がりましたが、関口さん、アップルワールド会員さん、前回言葉足らずだった部分について、ご理解いただけたでしょうか。関口さん、「内容そのものについては私も全く同意見です。ツインが確約できないと騒ぐ前に、郷に入りては郷に習えと言いたいですね」という、力強いコメントありがとうございました。次回は「ツインの呪縛」ファイナル。それでもツインにこだわりたい人のためのレクチャーです。また、この問題に関するみなさんの意見や見解も、ぜひ聞かせてください。お便りお待ちしています。
花鳥風月 ロールアウェイについての訂正と補足
同じく関口さんより前回の「オーストラリアやフィジーなど南太平洋では、同じ追加ベッドのことを『ロールアウェイ』と呼びます」という箇所について、「フォーシーズンズの HP(英語版)でエキストラベッドを頼みたい場合は予約ページで「Request a Rollaway Bed」にチェックを入れることになっています。またリッツカールトンでも同様で、予約ページを進んで行くと「Rollaway/crib preference」というプルダウンメニューにて追加ベッドのリクエストを入れるようになっています。年に4-5回は欧米中心に海外に行っていますが、個人的な経験上もrollaway bedという表現は南太平洋に限った話ではないと思います」というご指摘がありました。
ローラウェイ(Rollaway)はアメリカの造語で、転がして運ぶ簡易ベッド=車輪付きのベッドのこと。ですから、ご指摘の通りオセアニア地区に限った言い方ではありません。1980年代になると、こうした追加用のベッドは、折り畳み式で車輪なしのフォールディングベッド(Folding Bed)やベッドの下から引き出すトランドルベッド(Trundle bed)、また一部の高級ホテルでは室内に設えられたベッドとほぼ同等の立派なものまでと、多様化していきます。これらが総称として「エキストラベッド」と呼ばれるようになるのですが、その時にオセアニア地区ではまだ広く「ローラウェイ」と呼ばれていた・・・と言う歴史的なタイムラグの話でした。説明不足で失礼しました。ただリッカールトンやフォーシーズンズでは現在もローラウェイと呼ばれているとは、気づきませんでした! 確かにベッド形態を表す正確な表現ですよね。アメリカ人の合理性を垣間見た思いです。関口さん、貴重なご指摘をありがとうございました。