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中欧のバカンス大国クロアチアへ
今年も恒例のサマーヨーロッパ周遊をしてきました。相変わらず多数のアポイントメントとハードな移動が中心の過酷な旅でしたが、スケジューリングの段階で不思議な胸騒ぎを覚え、最長4日間の予備日を確保しておいたのです。これがドンピシャで、帰国便の乗り継ぎに遅延が生じ延泊を余儀なくされるハメに……。最短で戻れたからよかったものの、最近は民族紛争やエボラ熱など世界のどこでどんなトラブルに巻き込まれるやら……誠に予想がつきません。
イタリアでは昔から定番リゾート
今回のトピックは、ついに念願のクロアチアを訪問できたこと。クロアチアといえば、近年メディアで盛んに喧伝され、日本人旅行客も増えつつある中欧を代表するバカンス大国です。そもそも私が注目しはじめたのは20年以上前、クロアチアが旧ユーゴスラヴィアから独立を果たした頃でしょうか。
イタリア人がこぞって出かけるお手頃リゾートというウワサを聞いて、ずっと気になっていたのです。さらに最近ポーランド人の友人に話したら、「こちらでは昔から人気のディスティネーションですよ!」と。ほほう、ヨーロピアンに実はかなりメジャーな場所だったのですなあ。
そのなかでもイチバン人気は、ご存じ「アドリア海の真珠」ドゥブロヴニク。ところが8月は当然のことながらバカンスシーズンのピーク。人気エリアゆえ、ホテルがどうやっても取れません(泣)。そこで、ドゥブロヴニクから約100キ ロ北のスプリットに狙いを変更したのであります。
世界遺産の町スプリット
スプリットはかつてベネツィア1000年 共和国に統治されていたダルマチア地方の、中間あたりに位置する小さな町。ここがエポック・メイキングなのは、旧市街中心にある古代ローマの遺跡ディオクレティアヌス宮殿と史跡が、「現役」として使われていることでしょう。遺跡の中に観光客用の土産屋やカフェ、レストランからファッションブティック、スーパーマーケットなどが同居し、なおかつ暮らしている人もいるのです。「ライブミュージアム」という看板が掲げられていますが、まさしく生きた博物館。1979年には世界遺産にも登録されています。
一般的に考えれば、遺跡の中に人が住むなんてとんでもない話ですが、私はこれはグッドアイデアだと思いましたねえ。だって、当局がわざわざ多額の予算を組んで保護や管理しなくても、住民が進んでしてくれるのですから。もちろんある程度の補助はあるのでしょうが、遺跡が傷んでいちばん困るのは、それを生活の糧にしている人たち。いやが応にも自主的維持に力が入るというわけです。
最大の課題はホテル確保
そんなライブミュージアムの中で滞在したいというのが 私の希望……でしたが、旧市街のホテル確保は厳しい! 空きがないだけでなく、エコノミークラスですらとにかく高額なのです。ゲストハウスやアパートメントもロケーションがよければ、とんでもなく強気の料金設定。
これぞ、クロアチアに個人旅行する際の最大の課題でありましょう。これだけの観光国でありながら、それなりのホテルの数が圧倒的に少ない。アコモデーションに関しては、まだまだ発展途上なのですね。
結局、郊外の4つ星(実体は3星レベルかな……)に滞在しましたが、郊外といっても中心部からは徒歩で15分 ほど。歩いて回るのに不自由はなく、十分快適に過ごすことができました。治安もよく、夜遅くまで賑やかだし、危険そうな客引きも見当たりません。
ほとんどの人が英語を話し、親切で優しい。みな物静かですが、いったん話し出すと止まらないし、またその話が興味深いんですねえ。日本人にも通じる礼儀正しさがあり、それゆえ日本人に対する親近感もとてもあるように思いました。
スプリットからの小旅行
町も人も素晴らしいスプリットですが、実のところ町中は遺跡以外はたいして目を引くところはありません。なのに連泊するヨーロピアンが多いのは、やはり美しい海岸線とそこに点在する自然と文化遺産の数々の魅力によるのでしょう。延々と続く美しい海岸線のいたるところに車を止めて海水浴、これがスプリット流というかダルマチア流。たまにあるビーチは砂浜でなくぺブル(小石)ビーチ。
すぐ近くには美しい小島、古都トロギール(1997年世界遺産登録)があり、ちょっと足を延ばせば石畳の風情溢れるクルカ河口の町シベニクへ。そこには実にユニークな建築史を持つ聖ヤコブ大聖堂(2000年同登録)が鎮座しています。
またフェリーに乗れば世界的に有名なリゾートアイランドのフヴァル島や、クロアチア版「青の洞窟」があるビシェヴォ島も日帰り圏内。フィッシングツアーも盛んです。ただし移動がローカルバスやボートなので、目的によっては現地ツアーに参加した方が安心かと。
大迫力のクルカ国立公園
私のおすすめは、車で約2時間のクルカ国立公園。カルスト地形がつくりあげた階段状の滝は、その連続する姿が美しく、圧巻は長さ800メートルの間に17段もの滝が連なるスクラディンの滝。どこからこんなに水が集まるのかと思うほどの大迫力! 滝つぼでは絶景を眺めながら泳ぐこともできますよ。
さらに全長13キロの細長いヴィソヴァツ湖に浮かぶ小島には、教会と修道院がぽつんとあって、昔は50人ほどの男性の修道士が修行をしていたそうですが、今は5人だけなのだとか。それはそれは美しい景色の中にあるのですが……逃げ出したくなる気持ち、わからないでもありません(笑)。世界遺産登録されている国立公園ではプリトヴィッツェ湖群が有名ですが、クルカも大いにおすすめです。
クロアチアを楽しむために
ローマ時代以降、第二次世界大戦終結までの長い被支配の歴史や、近代史におけるチトー大統領による独自の社会主義体制、その後の民族運動と独立にいたる闘いを経て2013年にユーロに加盟したクロアチアは、バルカンの火薬庫とも言われたように、常に歴史に翻弄されてきた国であり、いまだに経済的に大きな問題を抱えています。
それが如実に表れているのが、物価のダブルスタンダードです。事実、ローカルの人が行く食堂とガイドブックに載っているような店とでは、料金が2~5倍 も違います。よって全部お任せのツアー旅行だったり、ガイドブックだけを頼りにして行くと、「高い!」という印象しか残りません。
確かに高いところはおいしいです。でも賢い旅人なら、 ローカルなレストランで手頃においしいものを食べたいと思うはず。特に個人旅行では、何にいくらお金を使うのかは重要な問題ですから、その国の実体経済を知ることはとても大切です。まずはスーパーに行って、現地の物価を調べてみるべし!
最初に本当の値段を知っておけば、どこにどれだけ出せるかの基準ができるし、無駄な出費をしなくてすむでしょう。それができれば、クロアチアは決して「高く」ありませんし、 ローカルの人と同じように「生活」を楽しむことができるはず。もし個人旅行をするのなら、ぜひとも最低1週間、できるなら10日間ほどのんびりしてみてください。駆け足の訪問ではわからない発見がたくさんあって、もっとクロアチアが好きになると思いますよ。
クロアチアの「おいしいもの」
日本でお目にかかることはほとんどありませんが、実はクロアチアはワイン大国。そのきっかけは1800年代、フランスやイタリア、スペインで疫病によりブドウの木が全滅した時、唯一クロアチアのものだけが生き延びたことによるのだとか。特にダルマチア地方は土地も気候もワイン造りに適しているようで、値段も種類も豊富です。私は安いワインしか飲みませんでしたが、テーブルワインとしては申し分ありませんでした。
この地方の料理もまた、日本人の口に合うシーフードがメイン。小エビ、スモールサーディン、イカなどを素揚げにして、塩、コショウ、レモン、オリーブオイル、バルサミコ酢などで食べるのが一般的。シンプルな味付けだからこそ引き立つ素材の新鮮さは、いまだに忘れられません。
一緒に食べるのが山積みの素朴なパンで、町中にはパン屋というかお菓子屋がたくさんあって、次から次へと人が入っていきます。小さな子供が膝の上にパイ風のお菓子を載せ、道ばたで売っているかわいらしい光景も見かけました。総菜パンもあるので、小腹が空いた時にちょっとつまむのにもいいですよ。