アメリカン・エキスプレス
ミスターMのおいしい旅の話「次の旅はここへ行け!」
Vol.
36

バリのリッツ騒動ウワサの真相

ミスターMのおいしい旅の話 バリのリッツ騒動ウワサの真相

海外ホテルを選ぶとき、みなさんはどんな条件で決めていますか。ロケーション、アクセスのよさ、魅力的な料金、グレード、テイストの好み・・・基準は人それぞれでしょうが、進化したトラベラーであるみなさんの中にはブランドという方も結構いらっしゃるかもしれませんね。今回はバリのリゾートで起ったとある事件を題材に、「ホテル」と「ブランド」についてお話ししていきたいと思います。

バリのリッツが消えた!?

事件の主人公は、リッツ カールトン バリ リゾート&スパ(以下リッツ・バリと記します)。前回のコラム(「押さえて悔いなし!バリのオールド&ブランニュー・リゾート」)でお話ししたように、日本人ゲストにも大人気を誇った同リゾートは、2009年4月をもって看板をアヤナ リゾート&スパに変更。リッツ カールトンの創業者であったホルスト・シュルツ氏のチェーンマネジメント下で新たなスターを切りました。「えっ、バリのリッツがなくなったの!? いつの間に!?」と、ホテル業界関係者ですら寝耳に水だったこの出来事。マネジメント期間の終了か・・・プロパティ管理の問題か・・・等々、さまざまな憶測が囁かれましたが、真相は全く別のところにあったのです。

目と鼻の先に登場したのは、あのブランド

一般に「リッツ カールトン」は単体のホテルブランドと思われていますが、実は現在その大株主は、マリオット・インターナショナル。つまり、リッツ カールトンもまた、マリオットの一ブランド。これが今回の騒動のキーになります。 インドネシア企業を有するオーナーが、バリにホテルを造るにあたりマネジメントをリッツ カールトンに依頼した・・・これがリッツ・バリ誕生の経緯です。オーナー氏の読みは見事に当たり、リッツ・バリはバリを代表する高級リゾートとして君臨。ゲストや専門家からの評価も高く、数々のアワードを受賞してきました。特に有名なのがハイクオリティかつ贅を極めたスパの施設だったことは、スパ好きの方なら深くうなずかれることでしょう。このリッツ・バリ誕生に際し、オーナー氏は当然ながらリッツ カールトンと詳細な契約を結びました。その中に「リッツ・バリ開業後10年間は、バリ内にリッツ カールトンのブランドを使用したリゾートを開業あるいはマネジメントしない」という一項目がありました。ところが・・・。

2006年4月、バリ・リッツの目と鼻の先(バリのホテルは敷地面積が広大なので5キロ離れていても、こんな表現をして問題ないと思います)に、ブルガリ ホテルズ&リゾーツ バリ(以下、ブルガリ・バリ)が登場したのです。たたでさえ顧客層が近いラグジュアリークラスの競合リゾートだというのに、なんとブルガリ・バリは、マリオット・インターナショナルとブルガリによる合弁事業だったから、さあ大変。オーナー氏は「重大な契約違反である」と抗議したのです。

命じられた賠償金1000万ドル!

しかし、リッツ カールトンにしてみれば、ブルガリ・バリにはこれっぽっちもリッツの名前をにおわすようなものはないし、客層も違う(これに関しては「リッツ・ バリに来るのはセレブ気分を味わいたい人、ブルガリ・バリに来るのは本当のセレブ、ミリオネア」といった表現で違いを示したのです。すごいですね・・・)。したがってブランドも違うし何の契約違反もないと、オーナー氏の抗議を突っぱねてしまいました。そして戦いの場はリッツの本拠地アメリカ、メリーランド州法廷に。裁判の過程は割愛しますが、結果は全面的に原告オーナー氏の勝訴。それどころか賠償金が請求額の2倍にひきあげられたのです。その金額日本円にして約10億円!被告だけでなく原告にとっても驚きの判決だったことは想像に難くありません。

判決の主旨はを簡単に言ってしまうと、リッツ カールトンはバリ・リッツの代理関係者としての信義と義務に違反した、ということ。即ち、リッツ側の主張は詭弁であると。判決が下ったのは2008年初春ですが、日本ではこの出来事はほとんどニュースにならなかったようです。その後については先号でも紹介したとおり、判決を受け入れ和解と契約継続を申し出たリッツ カールトンに対し、リッツ・バリのオーナーはこれを拒否。インドネシア語で「安息の地」という意味のアヤナ名で、心機一転を再スタートというわけです。

ブランド戦略にひそむ問題点とは

この事件は「ブランド」について考えさせる大きな契機になったように思います。ホテルにかかわらず、さまざまな業界で「提携」「協力」「コラボレーション」ばやりの昨今ですが、すべてがうまくいくとは限らないのが現実。いくら知名度があろうとも、単純にプラスとプラスの結果にはならないことも多々あります。またバリ・リッツの事件には「ブランド戦略は正しいが、その運用を誤っただけ」という意見もあるようですが、その「誤り」がイメージダウンにつながり、最悪ブランドそのものを失墜させてしまうケースもあります。

さて、この騒動によって、「世界の」リッツ カールトンに傷が付いたかというと、大変幸運なことに深刻なダメージを受けたようには見受けられません。判決後の迅速で誠意ある対応は見事でしたし、オーナー氏が新たな船出のパートナーとして、退職したとはいえリッツ カールトンのシンボル的な存在であるシュルツ氏と手を組んだことなど、大人の対応で事を荒立てることなくネクストステップへと進化したのです。さすが超一流のビジネスマンですね。また、若干複雑な裏事情に、メディアも報道の仕方に苦慮したのではないでしょうか。

興味のある人は2009年6月29日既号「プレジデント」誌をお読みください。「リッツ・カールトン・バリ事件」というタイトルで、ノンフィクションライター吉村清志氏のリポートが掲載されています。単純にコトの経緯とリッツのマネジメント展開のミスを糾弾する内容ではなく、その裏にある「ブランド」を巡る<法の精神>にも踏み込んだ、非常に示唆に富んだ素晴らしい記事です。

再出発したアヤナ リゾート アンド スパは、愛するバリにホテルを造るために世界のリゾートを研究してきたオーナー氏の、変わらぬ愛情が注がれています。海沿いの断崖にバーが増設されるなど、少しずつオリジナリティも追求されているようです。シュルツ氏のもと、これからのアヤナはどうなっていくのでしょうか。私も折々に訪問して、確かめていきたいと思っています。もちろんスパも忘れませんゾ。

マイフェイバリットホテル

大胆なコンセプトに脱帽 / Alila Villas Uluwatu : Bali

先のバリ訪問でもう1軒、私に強い印象を与えたブランニューホテルを紹介します。ウブド、マンギスと個性的なリゾートを展開しているアリラが、高級リゾートが点在するウルワトゥにオープンさせたアリラ ヴィラズ ウルワトゥです。あのエリア特有のスピードが全然出せないデコボコ路を走り続け、急に舗装が整い始めたら、そこからがリゾートの敷地・・という非常にわかりやすいエントランス(笑)。その先にあるのは、なんというか「異世界」そのものでした。海に向かってドーンと建てられた梁組みのようなバレや、石灰岩をふんだんに使ったモノトーンロビーエリア。デザインを手がけたのは、シンガポールを拠点に最近大活躍している建築スタジオWOHA。エコロジーを意識した建築で世界的評価を得ているその手腕は、ここでも存分に発揮されています。寺院を作るときに出た木材の切れ端を使ったデコーや真鍮の仏具を組み合わせた階段のポール、バティック模様の型抜きはステンドグラス風に・・・など、とても廃材を利用しているとは思えない斬新かつ洗練されたデザインに、ただただ感心するのみ。

客室はベッドエリアからサロン、プライベートプールが全面オープンになる開放的な造り。スタイリッシュな中にナチュラルなイメージが無理なく融合し、独特の落ち着きを醸し出しています。なによりも、そのまま通路側に落っこちてしまいそうなバレにドキドキ。このリゾートは、他にも巧みな省エネや水・海水のリサイクルで、環境との共存を目指しています。敷地内のいろいろな場所を探索したり、くつろいだりしながらアリラ ヴィラズ ウルワトゥの独自性を探ってみてはいかがですか?

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