52
バラとヨーグルトとITの国ブルガリア
あけましておめでとうございます。昨年は羽田空港国際線オープンやLCC(ローコストキャリア)就航など、海外旅行の新たなる転換や発展を予感させるトピックスが相次ぎましたが、さて、2011年はどういった展開が待っているのでしょうか。それも含めて今年もさまざまな角度から旅の話をお届けします。どうぞよろしくお願いいたします。
ソフィアは100年ぶりの異常気象
2011年第1回目は、さわやかな初春にふさわしく(?)ブルガリア訪問の報告からスタートしましょう。私にとっては初渡航国。描いていたイメージは、ご多分に漏れず「ブルガリアといえばヨーグルト」(笑)。それと、もう10年も前でしょうか、非常に物価が安いためリタイアメント後のセカンドライフやロングステイ先として注目されている・・・なんてニュースをちらりと覚えていた程度。出発直前まで多忙を極めていたこともあり、ほぼ予習ナシで赴いたのでありました。
滞在地は首都ソフィア。ヨーロッパでは2番目に標高の高い国となれば、そりゃあ寒いでしょう。で、かなり本気で防寒対策をしていったのですが、この季節にまさかの20℃超え。さすがに朝晩は冷え込みますが、日中はジャケットを脱いでいてもいいくらい。こんな気候は100年ぶりだそうです。いや、暖かいのだから文句はないのだけれど、最近、行くところ行くところ、こういう異常気象だらけ。何だか気味が悪いですなあ。
肌で感じる謙虚で文化的な雰囲気
ソフィアの中心地は地図で見てもわかるとおりとても小さく、観光スポットもスヴェタ・ネデリャ広場からアレクサンダル・ネフスキー寺院の間に、ほぼまとまっています。「街」というより「町」という感じですね。なのにばかでかい広場やばかでかい建物がどかーんと並んでいる。うーん、その景観はやはり旧共産国。整然とした石畳の道路にも、何やら感じ入るものがありました。そして行き交う人たちがみな、親切で謙虚というか。今風のおしゃれはしていても、どことなくつつましやかな雰囲気なのですよ。ふっとした表情に浮かぶスラブ独特のかげりに、ハッとさせられることが多々ありました。
ぶらぶら歩いていると目につくのが本屋。ヨーロッパではちょっと珍しい光景です。おそらくここにブルガリア最高峰かつ最大の総合大学ソフィア大学があることも、文化の匂いを濃厚に漂わせている理由のひとつなのでしょう。ところが、そんな知的なニュアンスの原因は、大学だけではなかったのです。実はブルガリアは世界有数のIT大国であり、世界各国のメーカーが進出しているだけでなく、ソフトウェア産業への投資も巨額。労働人口におけるIT分野の就業者数比は世界第2位なのだそうです。
ITと観光が国の経済の支え
ブルガリアにIT産業が集積するのは、やはりその物価の安さが魅力だからですが、それが国を豊かにしているかというと、問題はまだまだ山積といった状態です。なにせ高校教師の月給が200~300ユーロ程度で、これではとても暮らしていけないのだとか。それに、いくらIT企業が集まっていても求人や金銭面で地元に多大なる恩恵があるわけではありません。だから若者は職を求めて国外へ出てしまうわけです。ブルガリアはITと観光を経済の中心にしたいようですが、どうですかね。道はかなり険しそう・・・。
一方の観光の目玉はバラ。バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈の間にあるバラの谷は、毎年6月のバラ祭りで世界中から観光客を集めています。日本人にも大人気のようで、「ブルガリア? 行ったことあるよ」という御仁が意外と多いのには驚きました。今回は正反対のシーズンでしたから、バラとはご縁がありませんでしたが、バラ関係のお土産は通年開催中(笑)。香水にポプリに香油にコスメ等々。さすが世界の香水の約8割のバラが「バラの谷」産だけのことはあります。
作りたてのヨーグルト&ワインは最高
さて懸案のヨーグルトですが、滞在していたホテルの朝食で置かれていたのが普通の市販のもの。何の感興もありません。料理にも使われていましたが、これまた特にこれといった感動もない・・・もしかすると単なるイメージなのかと疑心暗鬼になっていたところ、出合いましたよ、素晴らしい味に。車で移動していたときに立ち寄った小さな店の作りたて。種類は羊とバッファローの2種類で、どちらも半リットルで130円ほど。これをランチの時に食べ出したら、もう止まらない! あっという間に完食してしまいました。いや、酸味が薄く、さっぱりとした爽快な味でありました。
こうした素朴な味で感動したもうひとつがワインです。こちらも作りたてをごちそうになったのですが、当然防腐剤などなしの生ワイン。ヌーボーとはいえピノ・ノワールよりかなりしっかりへビーな喉越し、実に美味でした。なんせ日本でこんなフレッシュなワインなんて滅多に飲めませんからね。ポリタンクからペットボトルに注いでくれるという大ざっぱさ加減にもシビレました。
観光ポイントはバラとヨーグルトと教会
ブルガリアはユーゴスラヴィア、ルーマニア、トルコ、ギリシャ、マケドニアと接しており、歴史的にも文化的にも洋の東西の影響を受けている国です。宗教的にも重要な土地で、ソフィアもまあ教会だらけといった感じ。それに街角や駅の構内など、そこかしこにローマ時代からの遺跡が転がっているんですよ。私が興味深かったのは、聖ペトカの地下教会。内部は強迫観念的といっていいほどのイコンやフレスコ画の密集。あの独特の絵を見ていると時間軸が歪んでしまいそうでクラクラ。イコンやロザリオなどのお土産も充実していて、しかも安い。宗教を観光商売にしない潔さに打たれ、小さなイコンを購入しました。
バラとヨーグルトとITならぬ、バラとヨーグルトと教会・・・これがブルガリア観光の3大ポイントでしょうか。私は郊外観光も含めて4日も滞在すれば十分かなと思いますが、教会や建築、美術史に興味のある人ならもっとゆったり過ごしても飽きない魅力があると思います。シーズンは、やはりバラ祭りが開催される6月がベストでしょうか。スキーリゾートもあるそうですから、意外といつ出かけてもそれなりの楽しみがあるかもしれません。東欧やバルカン半島の国と組み合わせての周遊もよさそうですね。今年の旅行計画に、ちょっと加えてみてはいかがでしょう。
ソフィア滞在は「中心地」が鉄則
IT産業が盛んでビジネス客が増加していることもあり、静かなソフィアにも比較的大型なホテルが増えてきました。10年前には5ツ星といえばケンピンスキーが一般的でしたが、今では高級ホテルも色とりどりに。しかし、ビジネスではなく観光メインで滞在するならば、中心街に宿を構えるのが鉄則、と断言いたします。一見シンプルに見える市街図ですが、通りや建物のサイズは想像以上。ゆえに徒歩での移動がかなりハードなのです。今回私が投宿したのはスターウッドの最高峰ラグジュリーコレクション、シェラトン ソフィア ホテル バルカンで、聖ゲオルゲ教会をコの字に囲むまさしく一等地。ホテル自体はあえて古式ゆかしさを残しつつ、ふんだんに使われた大理石や広々としたコリドー、フォイヤー、高い天井が風格を感じさせます。客室もゆったりしており、クラシックな感じでなかなかのもの。ただし、まだユーロに加盟していないブルガリアですから、ブレックファストやフィットネスクラブなどには片目をつむってあげましょう。地下鉄工事中のため2010年末現在、広場や大通り向きの部屋だと、やや騒音が気になるようなのでご注意を。
花鳥風月 リラの僧院は必ず行くべき世界遺産
バラ祭りと並ぶブルガリア観光の目玉はリラの僧院。ソフィアから車で2時間程。リラの僧院は、10世紀の僧侶イヴァン・リルスキが隠遁場所として建てた小さな僧院がその祖。シメオン1世の第1次ブルガリア帝国が隆盛を極めていた時代で、リルスキはその退廃した世相を嫌い、山の中にこもったのです。続いて彼を慕う人々や弟子が集まり、いつしかブルガリア正教の本拠地に。14世紀にブルガリアはオスマン・トルコの支配下になりますが、この僧院だけは、いわゆる治外法権的存在だったのだとか。現在の建物は1833年の大火災後に復旧されたものですが、私がこれまで見てきた教会の中でも圧倒的な東西融合の美と存在感で、独特の建築様式や白と赤の縞模様、そして内部のフレスコ画にも目を見張りました。中央の教会を取り囲むように4階建ての宿泊施設もあります。チャンスがあったら、ぜひ泊まってみたいものです。