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LCCが変える旅のスタイル~日本とLCC
前回は、欧米で安価かつ効率的な大陸内移動手段としてスタートしたLCC(ローコストキャリア=格安航空会社)が急激に注目を浴びている背景として、海外旅行のスタイルが団体から個人手配型への移行や消費活動の変化、そして世界的な景気不況が追い風になったことなどを大まかにお話ししました。では、実のところ、私たちが関わることになるLCCとはどんなものなのでしょうか。
春秋航空が茨城空港に到着するワケ
メディアの話題をさらった中国の春秋航空。4,000円で限定発売された上海-茨城間の航空運賃は、たったの19分で売り切れになってしまったそうですね。が、注目して欲しいのは、その驚きの料金よりも、日本の発着空港が茨城だということ。いわゆる「日本の玄関口」である成田や羽田ではないのですな。なぜだと思いますか? 開港間もない茨城空港のPRのため?ええ、もちろん、それもあるでしょうね。でも、もっと大きな理由があるんです。しかも、それこそが、4,000円という破格値を実現するための重要なポイントなのです。
「日本の玄関口」は銀座のクラブなみ
航空会社は、自社の飛行機が乗り入れする各国の空港に規定の利用料(駐機料や離発着料)を支払わなければなりません。そして、ですな。世界でも悪名高き高額利用料を徴収しているのが、膨大な建設費や経営コストを背負った新東京国際空港(成田空港)や関西国際空港なのですよ! 同じ機種でも香港やニューヨークの約2倍、ソウルやパリの約3倍、そしてフランクフルトにいたっては6倍近い差があるというボッタクリぶり(笑)。座っただけでン万円もチャージされる、銀座の高級クラブもかくやというお高さです。
となれば、豊富な資金力を持つレガシーキャリアでなければ、成田に頻繁に離着陸できない、または航空運賃を上げなければなりません。これではLCCの価値はなくなります。さあ、どうする!? そこで目をつけたのが、空港利用料の非常に安い首都圏第2空港的な地方空港だったというわけです。春秋航空が運行をはじめた頃、茨城空港に降り立った中国人は、そこが東京ではないと知って愕然とした・・・なーんて話もありましたが、いやいや、都心への足さえ確保できていれば、茨城空港ノープロブレムでしょう。時間もお金もかかる成田空港と、パフォーマンスは大して変わらないんじゃないでしょうか。
LCCは地方空港の救世主となるか
このように、日本に乗り入れするLCCが地方空港を発着拠点に選定したことは、日本に思いもかけない恩恵をもたらすことになります。JALが経営危機に陥った大きな理由のひとつに、バブル期からガンガン建設されていった多数の地方空港の問題がありました。日本のナショナルフラッグとして全国を網羅するべく、 JALは新空港へのルートを整備しましたが、全く採算が取れなかった。それこそ、飛べば飛ぶほど赤字です。国としても巨額の費用を投じただけに、使えない、じゃ閉鎖しますというわけにもいかない。
ところがLCCの躍進で、やっかいなお荷物だった地方空港が、がぜん存在感が出てきました。まさか、こんな未来を見越して空港建設をしたわけではないでしょうが、バブル期の無駄遣いがこんなところで役に立つとは・・・(苦笑)。しかも、地方から地方というポイント・トゥ・ポイントの運行方法は、これまで海外からの観光客誘致が難しかった地方にとって、またとないビジネスチャンスにもなるのです。ただどこの空港でも恩恵があるわけではありませんけどね。格安の背景である合理性、即ち乗客がある・いることがベースにあることには変わりはありません。
「週末は香港で飲茶」が日常茶飯事に!?
需要があり、供給が可能だとなればさまざまな面でも変革が起こるでしょう。シャルル・ド・ゴール国際空港(T3)やシンガポール・チャンギ空港(T3)のように、テナントやサービスを極力カットしたLCC専用のターミナルを増設する国も増えています。安全性を錦の御旗に、規制規制で既得権益を保護してきた日本の航空事業も変わるかもしれません。そして、私たちの旅のスタイルもまた、変わっていくのだと思います。
だって、わざわざ東京に出てきて、次に成田に移動して、さらに何時間も待機しなくても、自宅から車で空港に乗り付けてそのまま、しかも新幹線よりも安く海外に行けるのですよ! 私だったら4時間までのフライトなら、確実にLCCをチョイスしますね。で、気が向いたら「ねえ、今度の週末、香港で飲茶しない?」とか「今週末はみんなで明洞で焼肉パーティ?」「いいねえ! じゃ、すぐネットでチケット押さえるよ」なんてことも可能になる。ショートトリップだから荷物は機内持ち込みサイズのキャリーバックひとつあれば事足りるでしょうし、コンパクトなLCC用ターミナルなら、パスポートコントロールや港内移動で時間を取られることもありません。もう、国内旅行と同じくらい気軽に、もしかするとそれ以上に経済的に海外旅行が楽しめるようになるのではないでしょうか。
棲み分けが進んでいくLCCとレガシーキャリア
すでにケアンズ-成田間を運行するジェットスターのように、今後は中・長距離便(どこからが長距離便かというのは難しいところですが)を運行するLCCや新時代のサービス感覚を持って進出してくるLCCも出てくるでしょう。従来の航空便サービスの概念が柔軟に多様化するわけです。一方でレガシーキャリアは、高額でも快適性と手厚いサービスを追求し、「ならでは」の差別化で生き残りをかけていくのではないかと思います。LCCの基本はWEB予約・発券、さらにはeチェックインですが、誰もがコンピュータやスマートフォンを使いこなせるわけではありません。団体旅行と同じで「わしゃ、高くても手取り足取りの方がラクでいいわい」という人だって少なくないですからね。
これからの航空業界は、近・中距離便は安くてシンプルなLCC、長距離便は高くても快適なレガシーキャリアというシンプルな棲み分けや、ユーザーの要望にあわせたサービス形態の多様化が進むように思います。エアアジア(マレーシア)、チェジュ航空(韓国)、セブ・パシフィック航空(フィリピン)というアジア屈指のLCC日本乗り入れも明らかになり、LCC戦争勃発は目前。日本の「空」はどう変わるのか、旅行業界はどう対していくのか。今後も動向を見つめ、その都度みなさんに報告していきたいと思います。
花鳥風月 ここが問題だよLCC
安い、早い、便利といいとこだらけのようなLCCでも、格安経営の実現には徹底した効率、合理性の追求があるわけで、それゆえ気にしておいたほうがいい事柄もあります。ネットワークが十分ではないLCCの場合、乗り継ぎなどに多少のリスクを覚悟しなければなりません。さらに乗客主体とは考えづらい突然のフライトキャンセル、代替機材が十分でないための大幅なディレイや長時間待機という問題が発生することも。レガシーキャリアはメイン空港発着ですし、代替機材もありますから振替手段がありますが、LCCによってはあまりあてにできないのですなあ。さらに、このような時レガシーキャリアはホテル宿泊手配などのサービスもありますが、LCCなら空港の椅子か床の上(!)です。よって安眠ピローとサバイバルシートは必携(笑)。なので、無難なのはポイント・トゥ・ポイントの単純往復使いということになるでしょうか。いずれにせよ、これからは多種多様なLCCの特長をそれなりに情報武装してひいきにすること。そうすることで本当に納得できる格安旅行が手に入ると思いますよ。