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列車でのんびりアリランの里へ
先日、携帯電話を買い替えて大変困ったことが起きました。700件に及ぶ登録データが移植できないというのです! そういえばずいぶん前にも自分で300件のアドレスを打ち込んだことがありましたが、さすがに700件は・・・。このほとんどは海外の友人・知人・仕事相手のもの。いつ、どこで連絡が必要になるか分からないので、消去するわけにはいきません。そしてこれはまた、私にとっておきの情報を授けてくれる、大切な「魔法の数字」でもあるのです。今回は、この「魔法の数字」を持つ友人のひとりと過ごした韓国の旅のお話です。
清涼里駅からローカル線で5時間
この友人が案内してくれるのはいつも、観光スポットにしろレストランにしろ、なかなか観光客が行かない場所。それだけに非常に貴重な体験をさせてもらえるわけです。今回は清涼里駅から列車で行くツアー。が、出発が朝6時。・・・早い。しかも乗車時間は約5時間。一体どこまで行ってしまうんだ、と思いきや、車ならたった2時間で到着してしまうという小さな村、旌善(チョンソン)がその目的地とのこと。
もちろん車の方がはるかに効率的なのでしょうが、このツアーはのんびりした風情を味わうのが何よりの目的。小さな食堂車付きの列車で、ローカル線をトコトコと進んでいきます。乗客はほとんどがこのツアーの参加者である韓国人の中高年層。外国人の姿も見受けられますが、車内アナウンスがハングルのみのところを見ると、国内向けの行楽地なのでしょう。山間部への旅とあって、みなさんの服装にも気合いが入っています。韓国では登山は人気のスポーツなので、おしゃれ度もかなり高い。靴もしっかりしたものを履いていましたっけ。
(C)Jeongseon 旌善郷土博物館
友人とおしゃべりしたり、景色を眺めたりしながらようやく旌善に到着。ここは山奥の谷あいの小さな村であり、または炭坑の村でもあります。まずはバスに乗って郷土博物館へ。手づくりのツボのようなユニークな形の建物で、1階は寄贈品や黄金仏像など。私は2階の民族用品の展示が興味深かったですねえ。一通り見終えて村の中心部に向かうと、小さな市場が開かれています。毎月決まった日に開かれるものだそうで、売っているのも素朴な地の物が中心。山菜やここでしか採れない蔓人参などなど。おいしそうな郷土料理を見ていたら、お腹が空いてきました。ここでツアーはいったん解散。フリーでのランチタイムになります。
私たちが選んだのは、旌善名物である山菜ビビンバの有名店。うーん、ヘルシー。あれこれ食事制限が多い私にはありがたい一品です。食べ方としてはよく混ぜて混ぜて混ぜて、こびりついているおこげもお茶をかけまわしていただきます。これも昔懐かしくていいものです。しかし、ここでもメニューはすべてハングル。さらに地元でしか採れない食材を使った郷土料理なので、ソウルっ子の友人ですら、「これが何なのかさっぱりわからない・・・」とぼやくことしきりでした。ヘルシーといえば、ライ麦やそば粉の薄焼き(クレープのようなもの)もありました。味付けをした山菜や野菜類を包んで食べるのですが、宮廷料理に出てくるクジョルパンが最高級だとすると、こちらはいかにも庶民的。チヂミもライ麦で作るそうです。
爽快! 7.2キロを走るレールバイク
健康的な昼食のあとは、アウラジ駅から九切里間の7.2キロをレールバイクで移動します。かつてこの線路は石炭を運ぶトロッコ用のものでしたが、炭坑の廃止に伴い、こんなユニークなアクティビティに生まれ変わったのです。見た目は骨組みだけのゴーカートのよう。これを自分で漕いでいくのですよ。思ったほどハードではなく、1時間弱の道のりを無事完走。あいにくこの日は雨でしたが、晴天だったら景色もたっぷりできて気持ちいいでしょうねえ。そして文化ありスポーツありのツアーは、いよいよ最後のイベントであるアリラン観劇となります。
哀切な旌善アリランの調べに酔う
韓国にはアリラン発祥とされる場所がいくつかありますが、三大アリランといわれているのが「密陽アリラン」(慶尚南道地方)、「珍島アリラン」(湖南地方)、そしてここ江原道地方の「旌善アリラン」です。旌善は朝鮮戦争で南北に分断された最前線。ある時は北の領土に、ある時は南にと目まぐるしく翻弄された場所です。旌善アリランは引き裂かれた家族や恋人同士の悲哀を歌い上げたもので、他のアリランと違い、「アリラン峠を越えていく」ではなく「越えさせてくれ」という悲しい歌詞なのだそう。リズムもゆっくりで重々しく悲しい響きが特徴です。
このアリランを地元の人々が歌謡ショーというか、オペラのような形で上演してくれます。はっきり言えば「おばちゃん劇団」なのですが、これが実に素晴らしい! 結構長いのですが、ついつい引き込まれてしまうのですな。私は途中で引っ張り出されて一緒に踊るという得難い経験もいたしました(苦笑)。ところでその出演者も楽団もそうですが、現地で案内をしてくれるのもすべてこの村の人。みなボランティアで参加しているのだそうです。ふだんはふつうの生活をしていて、こうしたツアーがやってくる日だけ、観光の村に変身するのだとか。なるほど。確かに、いかにも観光地という感じが全くありません。そんな素朴な風情が、日進月歩で近代化していく韓国に住む人々の郷愁を誘うのかもしれません。
さて、そろそろ帰りの列車が出る時間です。1泊くらいしたいところですが、ちゃんとした宿泊施設が無いのですから仕方ありません。またもや5時間かけてソウルに戻らなくては・・・。清涼里駅に到着したのは23時。長い長い、でも楽しい1日でした。
東大門市場に登場したレジデンスタイプのホテル。以前にも紹介しましたが、このたびじっくり滞在&チェックしてまいりました。いやあ、新しいというのはそれだけで気持のいいものですね。韓国のレンジデンスタイプの宿泊施設の決まりであるシャワーのみという構造も、特に不自由は感じませんでした。それより何より、ベッドの寝心地が抜群によろしい! 聞いたところによると寝具は、あの新羅ホテルと同じ製品を採用。しかも安定性を高めるためにマットのコイル数を2倍にした特注品なのだとか。さらにベッドリネンがしっとりではなく、ややパリパリとしたクリスピータッチなのですな。これも実に私好み。支配人に伝えると「よくぞ気づいてくれた!」と大感激。これはシーツが半乾きの段階でアイロンがけする、という手間も暇もかかるオリジナルオーダーなのだそうです。本当に質感は最高。あまり寝つきの良くない私が10秒で落ちましたからね(笑)。
屋外にテラス席のあるレストランでの朝食もなかなかのクオリティでした。実は韓国は、軍事的な理由から屋上を開放することを長らく禁じていたそうですが、その規制が近年緩和されたとかで、ここイーストゲート タワー ホテル&レジデンスも、この屋外テラスをバーに改装する予定とのこと。これほどの夜景は他では眺められない、と支配人が胸を張るほどの絶景ロケーションです。きっとトレンドに敏感な人たちが詰めかけてくるに違いありません。
ソウルでエンタメ!
今回はソウルに滞在している時間がさほどありませんでしたが、かの有名な「ナンタ」を観てきました。キッチンを舞台にした90分ノンストップの大迫力パフォーマンス。完成度も高く見ごたえたっぷり。また、いつ包丁が飛んでくるかと緊張感もたっぷり(笑)。こんなショーは日本では、きっと許可されないでしょうねえ。観客の8割は、なぜか日本のオバサマ軍団。ツアーも入っているようですが、それぞれのごひいきチーム目当てのリピーターがとても多いそうです。こんなところにも韓流ブームの余波が・・・? ナンタは初演からすでに10年。世界各地でも上演されているロングラン演目です。ウワサだけしか知らない人は、騙されたと思って足を運んでみてください。パフォーマーの躍動する身体の美しさを見るだけでも価値がありますよ。