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私が見たアメリカのホテル

アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。 著者紹介はこちら>>

第198回

分譲マンション化された2大レジェンドホテル

ホテルイメージ

1940年から50代にかけて、プラザホテル内にあったナイトクラブ、“ペルシャルーム”は多くのスターを輩出した。ライザ・ミネリやフランク・シナトラなどによるショーが毎晩、繰り広げられ、その中に、男性ダンサーたちと共に歌って踊るケイ・トンプソンという女性ボーカリストがいた。彼女はあまりの忙しさに疲れ、時間に遅れたりすると、「エロイーズが私をひきとめるから」という冗談めいた言い訳を使うようになった。そこから、プラザホテルに暮らしてドタバタ劇を引き起こす6歳の女の子の物語「エロイーズ」が生まれた。その絵本は1955年からベストセラーとなり、アメリカ中の子供たちのアイドルとなった。

「エロイーズ」が暮らすホテルになら、誰でもが暮らしたがるに違いない。そう考えたイスラエルのデベロッパー(不動産開発業者)が、2004年にプラザホテルを買収し、分譲マンションへと改築。当初、全てをマンションにする予定だったが、猛反対運動が起こり、火消し役に市長のブルームバーグまでがでてくる始末。結局、折衷案が生まれ、かろうじてホテルも残ることになった。私はプラザホテルがクローズされた後に不動産免許をとり、この分譲マンションを日本人に売る担当を引き受けた。だが、売りに出される半年以上前から、150人以上ものウエイテイングリストができ、最後は競りになるほどの大人気。セールスどころの騒ぎではなかった。

その後、リーマンショックでマンションの値段は一時的に下がったものの、優良物件なら、この20年で、3倍から5倍にまで値上がりしている。だが、プラザホテルのマンションは2倍にもなっていない。近頃の新聞で、「買うべきマンションではなかった」との見出しがついた。1900年初頭に建てられた建築物はどれも窓が小さいうえに、コートヤードビューと言われる、裏庭しか見えない眺めの部屋がある。プラザホテルのように文化財指定されているものは、外観を変えることが許されないため、窓を大きくすることができない。憧れて購入したものの、暮らしていると、欠点が見えてくる。結果、暮らしごこちのよくないマンションというレッテルが張られ、値段が上がらなくなってしまった。

約10年前、中国のデベロッパーがウオルドルフ=アストリアを買収し、マンションに改築すべく動き始めた。コロナもあり、既に10年間、閉鎖されたままの状態だが、今年中には完成するという。だが、プラザホテルの例で、古いビルをマンションに改築しても、快適な部屋は造れないということは周知の事実。もはやウオルドルフ=アストリアというネームで高い値段をつけることは難しい。このデベロッパーは手痛い失敗を経験することになる。

2024.05.31公開

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奥谷啓介氏

著者:奥谷 啓介

1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントを、また2023年6月からは長年の夢であった小説家としてデビュー。ホテルマンの経験を活かし多方面で活躍中。

・奥谷 啓介オフィシャルサイト

<著者紹介>

・超一流の働き方

ビートルズ・ケネディ大統領・サウジの大富豪……全世界のVIPらに愛され、マネージャーとして超一流の世界で学んだ世界標準の「サービス」「心の持ち方」「自分の活かし方」「生き方」を公開!

超一流の働き方

・なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

「アメリカのホテルで1万円儲かることが、日本のホテルでは3,780円しか儲からない」といわれるほど世界最低レベルの生産性。働けど働けど儲からないワーキングスタイルに苦しめられるのはもうやめよう。

なぜ「お客様は神様です」では一流と呼ばれないのか

・はえくんの冒険(原作:アントニオ猪木、著:ケニー奥谷、絵:八雲)

ブラジルの中央、マッドグロッソにある牧場に生まれた「はえくん」の物語。原作のアントニオ猪木氏が自身の体験をもとに長年あたためてきた企画が、奥谷氏の手により絵本になりました。大人が読んでも楽しめる愛と友情の物語です。

はえくんの冒険

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サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。

サービス発展途上国日本 - 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする

・海外旅行が変わる ホテルの常識

「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。

海外旅行が変わる ホテルの常識

・世界最高のホテル プラザでの10年間

アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。

世界最高のホテル プラザでの10年間

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