年月とともに美しさを増していくエントランスの表情
はっとするようなデコレーションがあちこちに
吹き抜けの廊下に吊り下げられた帆船の模型
メゾネットスイートは「貴賓室」のような内装
知る人ぞ知る存在をめざして
ホテルモントレアマリーは、帆船がデザインテーマ。15世紀のデンマーク王女の名を戴いた大型帆船シャーロット・アマリー号に、その名をちなんでいます。また「アマリー」には「妹」という意味も。実際、ここは道を一本挟んで建つホテルモントレ神戸の姉妹館としての役割も果たしています。でも、こんな至近距離に同グループのホテルが位置するなんて、ちょっと不思議ですよね。その背景を宿泊支配人の菅原裕子さんにうかがいました。
「隠れ家」へのこだわり
「ホテルモントレ神戸が開業以来満室続きで、ご利用をお断りしなければならないケースが増えていたことも、こうした「別館」を造る動機になっていたのでしょうが、それよりもオーナーの『隠れ家的なホテルを造りたい』という思いの方が強かったようです。何しろ全国のモントレの中で名前に地名が入っていないのは、ここだけなんですよ。当初は『モントレ』すら冠したくないと頑張ったそうですが、さすがにそれはちょっと…ということで思いとどまったらしいです」。
オープンは1992年。告知も宣伝もほとんどなし。ホテルモントレ神戸を利用するゲストへの紹介や、そのクチコミで知名度を上げていきました。「隠れ家ですから、知る人ぞ知る存在でいいと。煩雑な日常から身を隠したくなったときに、人知れず来て人知れず帰っていく場所でありたい。そんなホテルをめざしていたのです」
こだわりの客室は機能よりも面白さ優先
全69室という規模はクローズド感を演出するには最適の数。しかも隠れ家らしく、造りには徹底的にこだわりました。「ホテルとしての機能性より、コンセプト重視、面白さ最優先。本当に豪華帆船の中の客室を完璧に再現するつもりで、あやうくシャワーブースのみの部屋も造るところだったんですよ。設計会議ももう数え切れないくらいしましたね」と、当時を思い出して笑う菅原さん。こだわりの客室は2007年の全面リニューアルで、いろいろな点が「ノーマル」になったそうですが、それでも名残はあちこちに残っています。たっぷり目をかけただけに、このホテルへのオーナーの愛情は「娘」に対するような深さ。またモントレ神戸から異動していった古いスタッフも、同じような愛着を持っていて、「オーナーもスタッフも、帰神すると必ずアマリーに足を運ぶ」のだとか。
ツタが絡まる秘密めいた外観、レセプションや吹き抜けの階段に吊り下げられた帆船の模型や個性的な家具・調度品に、鮮やかながら奇抜なカラーリング。その個性はモントレグループの中でも際立っています。「以前、最後までシティホテルと気づかないままチェックインし、退館していったカップルもいましたね」。こんな「隠れ家的」使われ方、ホテルモントレアマリーだからこそ何ともロマンティックではありませんか。
窓から生田神社の緑や六甲山を見渡せる部屋も
デスクとは別にあるドレッサーは嬉しい配慮
12月はロビーの暖炉に火が入り家庭的なムードに
夜になるとますます隠れ家的な雰囲気が
こだわり派の女性のハートをキャッチ
「もともと女性のお客様のご利用が多いホテルですが、最近は女性のビジネスステイや、ひとり旅でのご滞在が増加している印象が強いですね」とは宿泊支配人の菅原さん。「年齢も比較的高めです。リラックス目的で来られる方は要求も厳しいですよ。ストレス解消のために滞在するのだから、それなりの舞台を用意して欲しいと」。
ラグジュアリークラスを選ぶ予算はない。でも安いだけのホテルには泊まりたくない。手頃な料金で、少しでも魅力的なホテルに泊まりたい。そんな女性のハートを見事にキャッチ。グループホテルの中でも突出した女性利用率を誇っています。
くつろげる配慮が行き届いた客室
女性ゲストが最も喜ぶのが客室のしつらえ。明るく居心地がよく、そしてのんびりくつろげる。甘過ぎないインテリアも心をなごませてくれます。またバスルームにセパレートシャワーブースや、外光がたっぷり入る窓のある客室の割合が多めなのも、バスタイムを快適に過ごしたい女性には嬉しいこと。さらに独立したドレッシングスペースが設けてあるのは、女性二人が同室しても、ストレスなしにゆっくりメイクアップできるありがたい配慮です。
しかし、すぐそばに同じ系列のホテルモントレ神戸があるのは、ゲストの奪い合いにならないのでしょうか。「実はモントレ神戸とアマリーはオペレーションが一緒。ですからゲストを双方にスムーズに誘導しやすいのです。たとえばモントレ神戸が満室の時は、アマリーをご案内するのですが、一度でもアマリーに泊まったことのある方は、その後もアマリーを選んでくださいます」。こうして徐々にアマリーのファンが増えていき、高稼働率をキープしているというわけです。
20周年を迎えモントレ全体の指針に
稼働率高いことはホテルにとって最高の勲章ですが、一方で悩みもあります。それがメインテナンス。「インテリアやファブリック類だけでなく、カードキーもとにかく消耗が激しい。通常の倍の速度で劣化していくので、メインテナンス費用は倍になる計算になります」。とはいえ、いくら時代の要請があっても「コンセプトに沿わない改装や変更は行いません」と菅原さん。「モントレ神戸とモントレアマリーは、間もなく20周年を迎えます。グループ内でもあまり前例がないので、何が起こりどうなるのかわかりませんが、はっきりしているのは、この2軒が全てのモントレの指針になるということ。そういう意味では、とても楽しみなんですよ」。
エレベータの基内はワクワクするような仕掛けが
甘さを抑えたインテリアが大人の女性に好評
明るく清潔な雰囲気はビジネスステイにもおすすめ
化粧室もこの凝りよう。館内のどこか探してみて
エレガントな北欧風のロビーエリア
ホテルとしては使いづらくても、面白ければいい。そんな大胆なコンセプトでスタートしたホテルモントレアマリー。さぞや斬新なデザインかと思いますが、パブリックエリアはいたってエレガント。温もりのある木材を多用した北欧風の空間になっています。重厚な趣を演出しているのが、レセプションの対面に切られている暖炉。12月には実際に火を入れるのだそうで、ほんのり残るススの跡が家庭的な安らぎを感じさせてくれます。
客室までの「船内の旅」
ユニークなしつらえがあちこちに仕掛けられているのが、客室へ向かうまでのルートです。エレベータが、まず見もの。リベットを打ち付けた鉄板のような扉に、ケージに守られたランプ。重ね塗りした真っ白なペイントが、本当に船の中の設備のよう。基内も凝りに凝っています。フロアランプは深度計、背後に舵、ブルーライトに、防水風の収納部。実際は上昇しているのですが、この中にいるとどんどん深海に潜っていくような気がします。そし重い扉がゆっくり開くと、海の上!波をイメージしたスカイブルーのカーペットがゲストを出迎えてくれるのです。
女性が喜ぶ明るく愛らしい内装
さて、全面改装されて「ノーマル」になったという客室です。「帆船に乗船中のような気分に浸れるように」という内装は、明るくそして清潔感に満ちています。基調色はスモーキーなブルーとホワイト。重厚感のある木の家具が置かれていますが、フロアも含めて明るい色合いなのでほっこりとした温かさが漂います。ベッドボードの細工などはフェミニンですが、壁に飾られている花の絵のタッチ、オリジナルオーダーだという陶器のフロアランプの藍色、フラットカーテンなどが、ピリッと利いて甘さをセーブしています。
ところで、改装前はどんな部屋だったのか気になります。「フロアランプはないし、全てのコントロールパネルをサイドテーブルの中に収納していたんです。何でも本当の帆船がそうなっているとかで…。当然、お客様にはわかりづらいので説明書を置いていました」。そうでしたか。でも、そんな変わった部屋にも滞在してみたかった気もします。
窓を開けるとすぐ隣にある生田神社の緑や六甲山が見渡せます。それを眺めながら海の上を運ばれていく自分、を空想するのも楽しいかもしれません。もし予算に余裕があったら、メゾネットスイートをリクエストしてください。こちらはガラリとイメージが変わり、貴賓室のような豪華さ。隠れ家ホテルの中の隠れ家のような特別感あふれる客室です。