朱色に川の流れ、ホテルのロゴにも江戸の香り
西洋に和のデザインを取り入れた近代的な建築
江戸の伝統色・浅葱色をメインにしたツインルーム
小さなエントランスは西欧の隠れ家ホテルをイメージ
「粋な黒塀」が似合う大人の町に
メトロの出口からすぐ、ゆるやかな坂の途中に黒塀が目をひくスタイリッシュなホテルがあります。2006年築とまだ新しい建物ですが、半蔵門という町にすんなり溶け込んでいる印象です。ホテルモントレグループのこだわりである、ヨーロッパの隠れ家を思わせる細く続くエントランスを抜けると賑やかな話し声が。「最近は平日でもグループでお泊りになる中高年のお客様が増えてきました」と宿泊課副主任がにこやかに出迎えてくれました。ホテルモントレ半蔵門はアクセスのよさからビジネスユースが主流ですが、「ここは東京を観て、感じていただくには最適の場所」とのこと。駅近だけでない、その魅力とは?
西洋スタイルと江戸のエッセンスが融合
レセプションフロアは墨色がベース。薄桃色の西洋タイルで描かれた桜が流れるように床へと広がります。豪華でありながらゆったりと落ち着く・・・。それは西洋スタイルに和の様式美を採り入れたデザインの成せる技。「服部半蔵のお屋敷があったという土地柄にあわせ、江戸を意識しています」の言葉通り、前面に押し出すのではなく、さりげなく、印象的に江戸の「粋」が配置されています。
たとえば、江戸の伝統色をメインにした色使い、江戸文様がほどこされた客室プレートなどなど。客室はホテルには珍しいパステルイエローとグリーンの壁。畳もふすまもありませんが、不思議と和を感じさせます。飴色(ベージュ)、薄紅(ピンク)、萌葱(モスグリーン)など、着物の帯や半襟に合わせるような色彩が織り成す、色合わせの妙によるものでしょうか。さらには、木目を活かした濃茶の家具やドア、和紙と木の照明などもしっくりと似合っています。ちなみに、ここではパステルイエローは山吹色、グリーンは浅葱色と呼ばれています。
客室稼働率90%の知る人ぞ知る人気ホテル
ホテルモントレ半蔵門の客室稼働率は90%! これは都心のホテル激戦区では驚異的なもの。立地のよさだけでは獲得できない数字であり、ホテルとしての質の高さがわかります。「個人のお客様はリピーターが多いですね。海外のお客様は全体の15%ほどです」。ビジネスマンからファミリー、外国人ゲストまでさまざまな宿泊客に「もう一度泊まりたい」と思わせる秘訣は、きめ細かいサービス。「実は、小さなお子様を満足させるのが一番難しいんですよ」という宿泊課副主任は、どんなに忙しくても「どこから来たの?」と声をかけるのを忘れません。子供向けの設備を持たないからこそ、心配りが大切なのだと言います。ひとりひとりの目線に立ったサービスがこのホテルの高い顧客満足度を支えているのです。
和洋折衷のスタイリッシュな外装
10室あるデラックスツインルームは26㎡で広々
ホール「茜」は開放感のあるオープンデッキがシンボル
ルームプレートにも江戸の香り。江戸の文様がキラリと
お客様を「並ばせない」心づかい。
「駅から近いので、ほとんどのお客様がチェックイン前に荷物を預けられます。日勤のスタッフはお部屋に荷物を運ぶのが主な仕事といってもいいくらいです」。スタッフにホテルの自慢をうかがったところ、ちょっと意外な答えが返ってきました。「フロントは女性が多いですから、重いスーツケースをいくつも運ぶのは重労働です。でも、これでお客様の負担をひとつ減らすことができるんです」。ひとつひとつの小さなサービスが、大きな信頼へとつながり、リピーターを増やしているのです。
「ビジネスのお客様には、いかにスムーズな対応ができるかがカギです」。「お客様を並ばせない」がフロントスタッフの合言葉。「ひとりで何人ものお客様に目を配らなければなりません。この方はカギを渡したいだけだとか、何か聞きたいことがあるのかもなどと察しなくてはならないのです」。全340室の人気ホテルをたった数人のフロントスタッフでさばくのですから楽ではありません。「ここで鍛えられたら、どこのホテルでも通用すると言われています」と笑う宿泊課副主任も、プロの目をもつホテルマンのひとりです。
「東京らしくない」ホテル
駅に近いホテルはたくさんあります。オフィス街へも観光スポットへも便利なホテルも少なくないでしょう。しかし、都心の駅に隣接し、アクセス抜群で、しかも静かなホテルとなるとどうでしょう。その条件をすべて満たすホテルモントレ半蔵門は、東京では貴重な存在ではないでしょうか。「駅から近いということは、小さなお子様を雑踏のなか歩かせないですむということです」。なるほど、やさしい目線で見ると、子供にもメリットが大きいホテルのようです。
ひとりひとりのお客様に向けて
朝食はブッフェスタイル。「朝食のみご利用のお客様も」というから、なかなかの人気。広々したホールでゆったり味わえます。ホテルモントレ半蔵門はハンディキャップルームはありませんが、1階には車椅子が利用できるトイレを用意。全館段差を極力減らし、バリアフリーへの対応を進めています。「すべてのお客様に満足いただくために」設備にも真心が感じられます。最後に島崎さんのイチオシ、駅名の由来にもなっている「服部半蔵羊羹付きプラン」をご紹介。「味はスタッフのお墨付き。でも、なぜ芋羊羹なのかは聞かないでください」。いいえ、もちろん聞きたいです!
シックな色合いの和モダン絨毯にも注目です
レセプションフロアに飾られている夜桜の絵画
居心地のよいシングルルームは山吹色でまとまっています
シンプルで使いやすいバスルーム。シャワーは切り替え式
西洋の中に江戸のお洒落を散りばめて
タイルでホテルのイニシャルをデザインしたエレベータの扉が開くと、菊と江戸の文様をモチーフにした絨毯が目に飛び込んできました。エレベータの内と外でヨーロッパと和。小さな発見。滞在中にいくつ「江戸のお洒落」を探せるか楽しみです。最上階のシングルルームは決して広くはありません。でも、あまり狭く感じないのです。それは、入り口からベッドが見えない造りになっているせいかもしれません。これはやや広めのツインルームも同様です。さらには、部屋を包むやわらかな色調の効果もあるのでしょう。
快適ステイのための心配りが随所に
セミダブルベットの脇には、オットマン付きのシングルソファ。足を伸ばせるだけで、リラックス感が断然違います。バスルームの壁は和のテイストを活かした藍色のストライプ。深めのバスタブだからお湯をためてのんびりつかれそうです。ふと気づくとデスクに灰皿が。タバコのにおいがしないので禁煙室とばかり思っていたのですが・・・。
スタッフにうかがうと「きっとあれのせいですよ」と加湿器付き空気清浄機を指差します。窓が開かないホテルはにおいだけでなく、乾燥も悩みの種。実にありがたい気配りですが、この快適さは最新器機の力だけではないはず。ハウスキーピングの仕事がきちっとなされている証です。隅々まで掃除が行き届いているおかげで、心地よい空間が保たれているのだと確信できました。
「ここに江戸があった」と感じさせる町で
L字型の建物なので全室からは見えませんが、皇居の西の森と丸の内の高層ビル群の景色は「外国のお客様に特に人気」なのだそう。東京では貴重な緑を堪能できます。日が暮れると森は深い闇となり、ビルの光が浮き上がります。幻想的な夜景は一見の価値ありです。
ふと、スタッフのひとりが「ここに江戸があったんだ」とつぶやきました。確かに武家屋敷は姿を消しましたが、ここには江戸の面影がちゃんと残っています。賑わいの江戸でなく、人々が暮らした江戸の町。現代の半蔵門が喧騒と無縁なのは、町の土台が今も失われていないからではないでしょうか。仕事や観光の疲れを癒すには、この静けさは宝物。今夜はぐっすり眠れそうです。