一年中花が咲き乱れるウィンターガーデン
部屋に重々しさを加味するアンティークの家具
こげ跡までついているロビーにある暖炉
ロビー階にあるトイレの美しいタイル
まるで中世イギリスに来たような雰囲気
ホテルモントレグループは中世ヨーロッパのテーマホテルを手がける比類なきホテルチェーンです。日本中に17軒以上のホテルモントレがありますが、それぞれがみな異なったテーマを持っています。モントレ札幌のテーマは中世イギリス。ホテルがオープンしたのは1994年ですが、館内には多数のアンティークが置かれ、100年以上を経た古いホテルのような雰囲気を醸し出しています。
「トイレをのぞいてみていただけませんか」とマネージャー。ロビー階にあるトイレに入ると全体が色鮮やかなタイルが貼りめぐらされ、本当に光輝いていているかのよう。「トイレにこんなお金をかけるなんてナンセンス!」と感じる人もいるかもしれません。しかし、このホテルにはそんなことは関係ありません。時代をいかに正しく表現しているかこそが重要なのです。
偽物と感じさせる部分が全くないレプリカ
建物の外観は薄黄色。イギリスではキングス・イエローと呼ばれる高貴さの印の色です。中世ヨーロッパのお城のような造りに、建物を見た人々が足を止めます。「川を越えると札幌では街の中心から離れた気分になるのです」とマネージャーが言います。川とは「創成川」のこと。しかし、この川があるからこそホテルの前に広い石狩街道が存在し、他の建物の影になることなくホテル全体を眺めることができるのです。外観の素晴らしさを売りものにするこのホテルにとって、まさしく最高の立地といえるでしょう。
LEDの幻想的な光で輝く教会
ホテルの中央には室内庭園「ウィンターガーデン」があります。季節に関係なく、一年中きれいな花が咲く庭園です。そして、古めかしさを演出する建物の中で唯一の例外が、LEDの幻想的な光で輝く教会です。式を挙げた後に、新郎新婦はウィンターガーデンで記念撮影をし、宴会場へと移動します。宴会場は豪華なシャンデリアや歴史を感じさせるアンティークのランプで飾られています。部屋の周囲には巨大なショーケースがいくつも置かれていて、その昔、イギリスのデパートで売られていたような商品が並べられています。その様子はイギリスの美術館のようにも見えます。
伝統的ホテル、ビジネスホテル、超豪華ホテル、リゾートホテルと、ホテルにはいろいろなタイプがありますが、モントレ札幌のように、中世ヨーロッパのホテルを模倣したテーマホテルは珍しいな存在です。それも「偽物」と感じさせる部分が全くないところに素晴らしさがあります。各都市のモントレホテルを泊まり歩くことを趣味にしている人がいるというのも、うなずけることなのです。
モダンなレストランは人々の郷愁を誘います
懐かしい絵画がいたるところに掛けられています
看板からすでにタイムスリップがはじまります
窓ガラスまで時代を忠実に再現しています
タイムスリップしたかのような空間
ここまで建物が英国調に造られているホテルは、日本中さがしてもまず見つからないでしょう。この建物自体が自慢なのは言うまでもありません。しかし、ホテルモントレ札幌には、働いているスタッフが努力で作り上げた自慢もあります。その代表が和洋折衷の創作料理レストラン「華蘭亭」です。
大正時代をイメージに造られたモダンなレストラン
「華蘭亭」は大正時代をイメージに造られたモダンなレストランであり、建物の中で唯一イギリス調から逸脱した存在です。テーブルも椅子も大正時代に使われていたもののレプリカを使用しています。壁に掛けられている絵画は郷愁をさそい、いつまでも眺めていたくなるようなものばかり。ガラス窓に視線を移すと、向こう側がいびつに見えます。こんなところまで「時代」を忠実に再現しているのです。天井の絵もすべて手描き。テーブルの上のアルコールランプひとつにしても、今では入手困難かつ貴重な骨董品です。このレストランは細部まで時代をさかのぼった空間を再現しています。
和洋折衷の会席を出せるのは異空間だから
料理はもちろん北海道の素材を活かしたもののオンパレード。一皿めが洋食のオードブル。次に和食のおつくり。続いてのメインデイッシュが洋食の肉料理。ここで一緒に出されるのが寿司。和洋折衷だからこんなことができるわけです。「今月のフェアはゴジラエビです」といわれて思わず聞き返しました。「ゴジラエビはとても稀有なエビで、普通のボタンエビが100匹採れるところ、ゴジラエビは1匹しか採れないんです。今月はこのエビを使ってフェアをすることにしました」とレストランマネージャー。
そしてシェフは「和洋折衷のコースが大人気です。お客さまの中には年配の方も多くいらっしゃいます。そうした方々は洋食にソースでは満足できない人も多いのです。寿司と味噌汁で食事を絞めることで、とても喜ばれます」と自信を持って言います。通常のホテルのレストランでは、和食、イタリアン、フランスとレストランのタイプが決められてしまうため、和洋折衷のコースを出すことなど考えられません。このホテルが和洋折衷レストランを持てるのも、ここが日本にあって日本でない空間だからなのです。
珍しい天蓋つきのベッドがここでは普通です
石畳の入り口を入れば中はイギリスの雰囲気
宴会場は結婚披露宴の予約でいつもいっぱい
ロビーを飾るシャンデリアとステンドグラス
ホテルの中はまるで中世イギリス
エントランスの車寄せは石畳、扉も手動式と、ここホテルモントレ札幌は何か用がなければ入りづらい雰囲気です。ロビーに向かう廊下を歩いていると、思わず左右を見まわしてしまいます。この家具はどこから持ってきたのだろうか? この絵は? すべてがとてもレプリカとは思えない代物ばかりです。実際にここで写真を撮り、「イギリスに行った」と言って見せたとしても誰も疑わないかもしれません。
フロントには大きな暖炉があり、焦げた跡までついています。高い天井からは年代を感じさせるシャンデリア。背後には大きなアンティークの棚。中に皿や壷が並べられています。ここまで凝った装飾は、並大抵の費用でできるものではありません。それらを見るだけでも、このホテルに泊まる価値があるのです。
アンティークの中にも快適性を求める仕掛けが
エレベータ内では行き先階を示す針がぎこちなく動きます。子供がその針に触りたいと、親に身体を持ち上げてくれるようにせがんでいます。基内の床もかわいらしいタイル張り。客室の鍵も昔ながらの部屋番号のついた鉄製です。ただし扉を開けた後は、それを定められた場所に置かないと室内の電気システムが作動しません。すべてが古い造りというわけではなく、省エネ対策もされているのです。
部屋には大きな空気清浄機があります。シンプルな器具ではなく、湿気を混ぜたり温度を調整したりする機能がついている最新の機械で、新型インフルエンザ対策として、全ての客室に導入されたそうです。ベッドはシモンズ製で一部天蓋つき。たっぷりした厚みがあるにもかかわらずふわりと軽いかけ布団は、ゲストを気持ちのよい眠りへと誘います。凝ったデザインのエンブレムのついたナイトウエアが布団の上に用意され、ベッドサイドの時計はかわいいブリキ製。アンティークでまとめられた客室は楽しさだけでなく、快適性をも十分に追求しているのです。
日本にいながらにして日本にあらず
外出するときはカメラを手離せません。館内のどこを歩いていても、ここも撮りたい、あそこも撮りたいと思ってしまうような被写体がたくさんあるからです。単に宿泊するだけでなく、中世イギリスの美意識を感じることが目的になってしまうようなホテル。日本にいながらにして、日本にあらず。ホテルモントレ札幌は、そんな体験をさせてくれる不思議なホテルなのです。