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私が見たアメリカのホテル
アメリカの一流ホテルで日本人マネージャーとして10年間勤務した著者が、日々の仕事の中でふと目にしたシーンから、日米の文化的な違い、考え方の背景にあるものなどをつづります。  著者紹介はこちら>> 
第28回 松井選手にニューヨークが沸いた日 NEW!
第27回 枕チップなど必要ない?
第26回 エンパワーメント
第25回 お客様は神様ですの勘違いが日本を駄目にする
第24回 消費者の厳しい目
第23回 サービス発展途上国 日本
第22回 新型インフルエンザ体験記
第21回 ホテル業界の名物男が手がけるホテル
第20回 姿を消したマンハッタンの高級ホテル
第19回 名物ドアマン引退に因んで
第18回 不景気の打撃を受けるニューヨークのホテル
第17回 維持費のかかる歴史的建造物
第16回 経済を回復させる社会構造と悪化させる社会構造
第15回 人種差別はどこにある
第14回 法律の国と常識の国
第13回 労働組合の力
第12回 レベニューマネージャーの力
第11回 セクハラ意識の薄い日本のホテル
第10回 素晴らしきアメリカのホテルのノウハウ
第9回 大雑把なアメリカのホテル運営
第8回 ホテルはコーポレート・イメージの象徴
第7回 オーバーブックへの理解
第6回 歴史に根をもつ日米のサービス形態の違い
第5回 アメリカのホテルの環境保護対策
第4回 アメリカのホテルのセキュリテイー設備
第3回 ホテルの選び方
第2回 チップの誤った常識
第1回 アメリカの一流ホテルのホスピタリティー
第28回
松井選手にニューヨークが沸いた日

その日、私はすれ違う大勢のスタッフから「やったな!」と肩を叩かれた。前日は、松井選手のヤンキーススタジアムデビュー戦。4番バッターを敬遠したあとの満塁での勝負。松井選手がヒットしたボールは弾丸ライナーのあたりとなりスタンドへ飛び込んだ。「いったい日本一と言われるゴジラとはどの程度の選手なんだ?」とみんなの注目の的だっただけに、この一発はニューヨーク中を沸かせた。私は同僚たちから祝福を受け、同じ日本人として松井選手に強い誇りを感じた。

松井選手がプラザにやってきたのはその数日後だった。NHKの取材で長嶋名誉監督がプラザのスイートへ入った。海外のホテルで働いているといろいろな人との絆ができる。私が懇意にしていただいている栄養学の大家、山田豊文先生がスポーツ選手の栄養管理のアドバイザーをされていることから長嶋名誉監督と知り合いだった。そのつながりもあり初対面ではあったが、野球にまつわるいろいろな話しを伺うことができた。

長嶋名誉監督のエスコートを終えてオフィスに戻ってくると、ヤンキース広報の広岡さんから電話がかかってきた。「松井が自分の車でプラザに間もなく到着します。これから長嶋名誉監督と対談になりますので、その間、車を預かっていただけませんか?」私は急いでエントランスに下りた。ドアマンは車をホテルの前に絶対に駐車させない。ピーと笛を吹いて“ここに停めるな”と冷たい対応をする。しかし、外に出てみると、すでに松井選手の車はホテルの正面に横付けされていた。松井選手をさがしている私を見て、ドアマンがやってきた。「俺がゴジラの車の鍵は預かった。心配するな。」そう言って、人差し指でクルクルとキ―を回した。

“ゴジラがホテル内にいる”という噂が回るのは早かった。今度は私のボスから連絡が入った。松井選手に挨拶がしたいという。アメリカの社会では、こうしたボスの願いは絶対的なものだ。無視をすることなど許されない。私は広岡さんに電話をした。「全く問題ありません。間もなく対談が終わりますから、そこでお会いしましょう。」私はボスを連れて部屋へ向かった。ボスは当時ヤンキースの監督、ジョート―リー氏のサインが入ったボールを持ってきた。その横に松井選手のサインをいただき上機嫌となった。その日のプラザは松井選手デ―だった。

後にも先にも、ひとりの日本人がこれほどニューヨークを沸かしたことはなかった。その昔、ヤンキースが優勝すると、プラザの宴会場で優勝パーティーを開くのが常だったそうだ。もし昨年、松井選手がMVPに輝いたパレードのときに、プラザの同僚たちと一緒に過ごせたならば、私は祝福の嵐でぐちゃぐちゃにされたであろう。ホテルという観光産業の中にいてわかることは、松井選手ほど日本から利益をニューヨークにもたらした人はいないということだ。恐らくこれから先もこうした人は出てこないのではないかと思う。ながいことありがとう、松井選手。

著者:奥谷 啓介
1960年東京都生まれ。ウエステインスタンフォード&プラザシンガポール、ハイアットリージェンシーサイパン等勤務の後、1994年よりニューヨークのプラザホテルに就職。2005年プラザホテルの閉館に伴い退職。現在はニューヨークにてホテルコンサルタントとして活躍中。

【HP】奥谷 啓介オフィシャルサイトはこちら http://www.okutanikeisuke.com/
<著書紹介>
「サービス発展途上国日本 ー 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする」
サービスを向上させるにはスタッフを幸せにすることが一番の近道。アメリカの超一流ホテルでの経験から綴る業界改革論。
「サービス発展途上国日本 ー 「お客様は神様です」の勘違いが、日本を駄目にする」
「海外旅行が変わる ホテルの常識」
「プラザ」元マネージャー直伝、一流ホテルで恥をかかない滞在術。この一冊があなたのアメリカ滞在を変える!レジャーはもちろん、ビジネスにも役立つ情報の集積。国際人の責任として、海外に行く前にその国の常識を学ぼう。
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「世界最高のホテル プラザでの10年間」
アメリカのホテルはなぜこんなに不愉快なのか!?「日本人利用客」VS「アメリカ人従業員」。果てしないトラブルの非は、どちらにある?敏腕マネージャーがフロント・デスクの内側からみた「日米比較文化論」。
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