川と運河に囲まれたリューベックは、どこか郷愁を誘うムードに満ちた美しい小都市です。名物は「ロートシュポン」という赤ワイン。・・・ん?ちょっと待って!リューベックは北緯54度。そんな北の大地でワインができるの?ハイ、できません。ブドウ畑すらありません。実は、ここの名物ロートシュポンは、フランスのボルドー産なのです。「ボルドー産のリューベックワイン」??そう、そこにはリューベックの栄枯盛衰に関わる感動のエピソードが隠されているのです。
時は12世紀。リューベックはバルト海貿易で一躍名を成した商業都市でした。資金源は近郊のリューネブルクから採掘してきた岩塩。当時、塩は調味料としてだけでなく保存食づくりにも欠かせない大変な貴重品。冬の長い北部ヨーロッパでは特に高値で取引されました。逆に北欧からは塩漬けにしたニシンやタラを持ち帰り、これがドイツ国内で大人気。リューベック名物として大変な利益を上げていました。またリューベックは海から約10kmの内陸にあるため、天候の影響を受けることなく運河で船舶を管理できるという地の利にも恵まれていたのです。
塩の貿易で巨万の富を得たリューベックの商人たちは、ハンザ同盟といういわゆる互助会を結成。周辺都市も巻き込んで次第に強大な自治組織を形成し、同地はその後400年以上にわたり「ハンザの女王」として君臨することになるのです。
持ち帰ったワイン樽は塩の保管倉庫に放り込まれ、中身は船乗りが気まぐれに飲む程度。こうして何年にもわたりフランスから持ち帰られた赤ワインは、次第に各家庭の地下にも保存されるようになり、市民たちの気楽な飲み物としてリューベックに定着していきます。
ところが時下って19世紀。かのナポレオン軍がドイツに侵攻、リューベックを征服したときのこと。町に繰り出したナポレオン軍の兵士たちは家庭の地下にあるワインを見つけて大喜び。飲んでみてこれまたびっくり!「なんてうまいワインなんだ!」そう、塩の倉庫は湿度・温度ともにワインの熟成に最適の環境だったのです。これがきっかけでロートシュポンは大ブレーク。フランス生まれのリューベック育ちワインとして、名実ともに同地の名物となったのでした。
素晴らしいのは、有名になりながらもロートシュポンがあくまでもテーブルワインでありつづけたこと。そこには何よりも合理性や平等を重んじた、ハンザ同盟ならではの意識が反映されています。権力による支配を嫌い、得た利益を惜しみなく社会に還元していた商人たち。これこそが北ドイツに誕生した世界最古の福祉都市誕生の原点なのです。
しかし大航海時代が訪れ、地中海から格安の天日塩がもたらされるとともにリューベックの落日がはじまります。拍車をかけたのがルターの宗教改革。肉食を是とする新教の影響でニシンやタラなどの需要が急激に減少。こうして各地のハンザ商館は次々と閉鎖し、ついに1669年、最後の総会とともに同盟そのものが消滅したのでした。
しかし町中には今日でもさまざまな建築物が当時のままの姿で残り、万人を温かく受け入れた開放的な雰囲気、そして手頃でおいしいロートシュポンもしっかり健在。在りし日のリューベックの輝かしいスピリットは、21世紀になってもそこかしこに息づいているのです。
川と運河に囲まれたリューベックは、旧市街全体が世界遺産に登録されています。水辺に映るその美しい街並みは、旅人を魅了してやみません。入口に構える壮大なホルステン門は、「ハンザの女王」と言われた当時の栄華を今に伝える堂々たる建物。旧市街の散策はここからスタートです。
旧市街の中心にあるのが、独特の風合いを放つ黒レンガの市庁舎。メルヘンチックなとんがり屋根とファサードに丸く空いた穴、そして誇らしげに掲げられた紋章が特徴で、これは当時の建築デザインの最先端でこのスタイルをまねた建物が周辺都市にも数多くできたそうです。他にも、「船員組合の家」や「聖霊養老院」、ドイツで3番目に大きい聖マリエン協会など見どころも豊富。のんびり回っても2時間ほどで一回りできてしまうほど小さな街なので、カフェや路地で寄り道しながら中世の雰囲気を味わってみては?ハンザ商人たちが今にも出てきそうですよ。
旧市街全体が世界遺産に指定されているリューベックには合計7つの塔を有する5つの教会、商館や寄合所、養護院、救護院、貧しい人たちのための長屋など多数の公共・福祉施設があります。
これらはみなハンザ同盟により建てられたもので、各職業別に用意するという徹底ぶり。船乗りが多いという土地柄、事故で夫を失った妻のための施設や、未婚女性専用の修道院も完備していたそうですから、まさに至れり尽くせり(?)。
潤沢な資金を投じて造られた建物は、当時の最先端のデザイン。今も変わらぬ美しいたたずまいに、絵心をくすぐられる旅人も多いようです。
リューベックでは毎年「7つの塔の料理」というコンテストが行われ、町中のレストランが参加します。条件は近海で取れた魚介類や地元の食材を使うこと、環境に配慮すること、そして何よりも手頃な料金であること。
入賞したレストランのみがその料理を供することが許され、証拠としてミシュランの星のようなマークが贈られます。市庁舎の地下にあるラーツケラーは、毎年入賞するという有名店。ロートシュポンとともに、自慢の一皿を味わってみてはいかが?
リューベックは、ドイツ北部バルト海沿岸の小都市です。アクセスの起点はハンブルク。ハンブルクの北約65km、電話で約30分の距離にあります。ドイツ北部を尋ねるなら、ハンブルクからぜひ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。
またリューベックの西約50kmにあるヴィスマールもハンザ都市のひとつで、旧市街は世界遺産に登録されています。45分。 Photo : (C) Lubeck und Travemunde Marketing GmbH
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