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知っておきたい建築様式学入門



Vol.6 バロック様式 (1/2)

様式が生まれる歴史的背景 〜「ルネサンス」への反動〜

たとえばあなたが、海外滞在中、「洋食の本場で、何が悲しくて和食なんか食べなきゃなんないの!?」みたいな意気込みの人であっても、アジアやヨーロッパの現地食を朝昼晩10日間も続ければ「お蕎麦食べたい!」という心境になっても不思議ではありません。

反動──アクションに対するリアクション。改革派に対する守旧派(抵抗勢力?)。共和制に対する王政復古、そして宗教改革に対する反宗教改革。

16世紀初頭〜中期に起ったマルチン・ルターやカルヴァンの宗教改革にかげりが見られると、16世紀の中期以降、カトリック勢力による反宗教改革が起り、教会の勢力が盛り返します。同じ時期、スペインは新大陸につくった多くの植民地により全盛期を迎え、ウイーンではルドルフ2世が神聖ローマ皇帝とボヘミア王を兼ねて即位、ハプスブルク王朝も絶好調。さらに、イギリスではエリザベス1世が即位と、いずこの国でも国家の権力が最強レベルになります。

芸術も、まさにその影響を受けました。


ルネサンス期にはメジチ家をリーダーとする市民社会が力をつけましたが、16世紀の中期以降、揺り戻しがあって、再び法王や皇帝や王が権力を回復します。
主要な芸術家のパトロンは、常にその世の支配者ですから、ルネサンス期に「神のための建築から、民のための建築」へとシフトした建築様式も、この時代になると「(国や皇帝、教会といった)絶対的権力に相応しい様式」が模索されることになります。
このような彫像を豊富に用いるのもバロックの特徴
(写真のホテルは、次のページにあります。探してみて下さい。)




バロック様式の特徴 〜豊穣で重厚、装飾的〜

新たなる創作の基本として、古典を見直し学ぼうとしたルネサンス期。バロック様式建築は、そのルネサンス建築の香りを残しつつも、際立った対照をなしています。


ルネサンス建築 バロック建築
端整
 
華麗
控えめ
 
華麗
整形
 
不整形
円形モチーフ
 
楕円形モチーフ
円柱
 
捻(ねじ)り柱
(爛熟期→次のロココにつながる)
余白の美
 
空白恐怖に近い豊饒な装飾
(爛熟期には装飾過多、特にスペイン、メキシコのもの)
彫りが浅い
 
彫りが深い
レリーフ的な彫刻利用
 
豊富に彫像などを設置
軽快感
 
重厚感
静的
 
躍動的


いかがですか? ことごとく対照的であることがご理解いただけたと思います。

ちなみに、「バロック」と言う用語自体は、その発生期には誉め言葉ではありませんでした。“ゆがんだ真珠”を意味する「バロコ(ポルトガル語)」が起源であるとされています。バロック建築が各地につくられ始めた時代でも「バロック」と言えば不整形のもの、装飾過剰のもの、という否定的なニュアンスがあったようです。

壮大で華麗な17世紀の芸術活動をあらわすバロックという建築様式が、評価を含まない様式そのものを表現する中立な言葉になったのは19世紀になってからでした。


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バロック様式の実例

これからバロック様式建築の典型的な実例をいくつかご覧いただきます。先に「ルネサンス建築の香りを残しつつも、際立った対照」をなす、としました。しかしながら、よくご覧いただくと、それぞれのデザインはルネサンスが下敷きにあります。さらに個々のデザイン要素としては、これまでに既におなじみのギリシャでありローマです。

皆様よくご存じの建物(工作物)の中から具体例をあげるとすれば、ローマのスペイン階段、トレヴィの泉、ウイーンのシェーンブルン宮殿、パリ南郊のヴェルサイユ宮殿といったところです。

それではさらに具体例をトレースしましょう。


(1) サンピエトロ寺院のコロネード(列柱廊、バチカン)

サンピエトロ寺院の前の広場から東に展開する広場を囲む列柱廊は、ミケランジェロと並び称されるもう一人の天才ベルニーニによってデザインされました。ルネサンス期に発明された遠近法表現を熟知し、それを応用した「逆遠近法」による寺院を引き立てるための前庭の演出が意図されています。

逆台形の先(写真では手前)には、短軸(東西方向)142m、長軸(南北方向)196mの楕円の広場を、4列の列柱廊が両腕を広げて囲む形となっています。その後に展開される本格的バロック様式のような装飾要素の豊饒さはありませんが、平面形に楕円モチーフを持ち込んだのはまぎれもなくバロック様式の先駆けといえます。


(2) 聖カルロ教会(ローマ)

60歳を過ぎて円熟味を増した建築家ボッロミーニが創造した空前のバロック建築です。それまでには誰も見たことのないような建築要素がいくつも盛り込まれています。建築の正面の1階壁面が凹-凸-凹、2階壁面が凹-凹-凹という形でうねっているのが最大の特徴。

ルネサンス期に確立された古典的テキストに対する反動意識の現われが集約されて、躍動感のある印象を与える外観となっています。彫りの深い各部のデザイン要素は、全体としては、一見危なっかしさすら感じさせる微妙なバランスの上に成り立っています。内部は楕円形のドーム屋根が、この時期の装飾要素に溢れた聖堂建築の内部空間の典型をみせてくれます。


(3) メゾン・ラフィット(パリ)

腰折れ屋根(マンサード・ルーフ)にその名を残すフランスバロック期の代表的建築家のひとり、フランソワ・マンサールの作品です(代表作に「マンサード屋根」がないのが不思議ですが)。

聖カルロ教会などのイタリアン・バロックの典型に比べると、外観の印象からはむしろルネサンス様式に近い印象も受けますが、内部の楕円形平面の部屋の存在はまぎれもなくバロック。

細部のデザインも彫りが深く、装飾的要素の豊かさもルネサンスとは一線を画していますが、直線的デザイン要素も多く、一見してバロックには見えにくいのも確かです。しかしながら、後の世にしばしば採用されることになる建築様式の一つの原型である「屋根窓つきの急勾配屋根を頂く三翼形式(建物正面に中央と左右の三箇所にアクセントを付ける形式)」は、バロック様式の確かな一分野です。


※写真提供:増田建築研究所/「聖カルロ教会(ローマ)」の外観、及び内部ドーム天井
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